今年のプロ野球春季キャンプはコロナ禍により、全球団が無観客で実施しました。例年ならば多くのファンが詰めかけるスタンドも閑散としており、そこに選手やコーチの大きな声が響いていました。


 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により変化したのは、こうした球場の風景だけではありません。キャンプ休日の過ごし方にも大きな変化が出ました。感染拡大防止の観点から多くの球団が「外出禁止」の措置をとり、部屋の行き来禁止やゴルフ禁止をとった球団もあり、それこそ選手は宿舎に缶詰めでした。

 

 コロナ以前、キャンプ休日のリフレッシュの定番といえばゴルフでした。特に中堅以上、ベテランになればなるほど人気が高いものです。ルーキーなど若手選手もオフの納会でゴルフデビューを果たし、やがて一端のゴルフ愛好家になっていきます。あるベテランコーチは球団の納会ゴルフでルーキー選手と同組で回った際、こうボヤいていました。

 

「ティーグラウンドの立ち方から、グリーンでのマナーとか全部教えましたよ。それこそ手取り足取り。"そこ踏んじゃダメだ"とか、"まだ打つんじゃない"とか。まるで子守でした(笑)。自分のゴルフなんかできずに散々なスコアになりましたよ」

 

 それにしても、なぜ野球選手はゴルフにハマるのか? 「ハマるとかではなく、必修科目だからです」。こう言い切るのは元千葉ロッテの里崎智也さんです。

 

 里崎さんによれば、ゴルフは先輩選手と回ることでコミュニケーションツールにもなり、それこそオフにはスポンサーとのコンペなど営業ツールとしても欠かせません。ゆえにロッテ時代は新人が入ると、オフにはまずゴルフに連れて行ったと言います。またキャンプ休日の過ごし方としてゴルフほど最適なものはない、とも里崎さん。その理由は?

 

「ゴルフは精神的リフレッシュにもなるし、何よりも朝から行動するのがいい。キャンプの休日だからといって昼過ぎまで寝ていては、生活のリズムが崩れ、翌日からの練習にも影響が出てしまいます。
 その点、朝早く起きなら午後にはもう宿舎に戻っているから生活のリズムも乱れない。運動にもなるし、リフレッシュにもなる。キャンプ中の娯楽として、これほど適したものはありません」

 

 その一方、ゴルフに出かけようとする選手を苦々しい思いで見つめているコーチや監督もいます。そうしたゴルフ反対派の中には、「野球のスイングに影響が出る」という人もいます。

 

 里崎さんの反論です。
「それについては、"ちょっと待ってください"と言うしかありません。僕らプロ野球選手は子供の頃から何千、何万、いや何百万、何千万回とバットを振ってきているんです。それが、1日せいぜい200スイングくらいのゴルフでフォームが崩れるとしたら、それの方が問題です。そんなことになるようなら、プロ野球選手として失格です。不振の原因をゴルフに求めるのは、ゴルフに対して失礼ですよ」

 

 ゴルフへの風当たりと言えば、19年に中日(当時)の松坂大輔投手が練習日にゴルフをしていた模様を写真週刊誌に報じられ、規律違反を理由に球団からペナルティを科されました。本人は球団に対し、「自覚が足りなかった」と謝罪し、当時、右肩を故障し、リハビリ中だったため、世間からも「練習を休んでいるのにゴルフとは何事か」と批判が集まったものです。

 

 このときスポーツコミュニケーションズ編集長・二宮清純は旧知の整形外科医に「ゴルフの肩への負担は?」と聞きました。その回答です。

 

「個人的にはプロ野球のピッチャーがゴルフをすることは決して悪いことではない、と考えます。なぜなら右利きの場合、ゴルフでは、ほとんど右肩を動かさないで済む。ゴルフでは肩関節自体の動きよりも肩甲骨の動きが重視されます。ちなみに肩のリハビリで最も有名なものに、コッドマン運動というものがあります。これはうつむいた姿勢で、手を下にしてぐるぐる回すというもの。アイロン程度の重量物を持つとさらにいいとされている。この運動に最も近いのがゴルフでしょう」

 

 ゴルフ害悪論はさておき、ウィズコロナのこの時代です。開幕後は、春季キャンプを"ノーゴルフ"で切り抜けた選手たちが見せる圧巻の"フルスイング"に注目です。

 

(文・まとめ/SC編集部・西崎)


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