(写真:“学生王者”の称号を手にしたパワプロの山本<左>とウイイレの柴)

 第3回BS11CUP全日本eスポーツ学生選手権大会が21日、都内のBS11ホールで行われた。初開催となった「パワフルプロ野球部門」(パワプロ)は、東海大の山本慧(やまもと・けい)が優勝。「ウイイニングイレブン部門」(ウイイレ)では、前回大会ベスト4で関東学院大の柴水晶(しば・みつき)が初優勝を果たした。

 

 4名中3名がプロ

 

 パワプロの“初代学生王者”の称号を賭けて争われた。今年2月に行われたオンライン予選に31名が参加。決勝大会にコマを進めたのは、山本のほか、関西大の新井宇輝(あらい・たかき)、松山大4年の渡部隼人(わたなべ・はやと)、東京工科大の堀池大樹(ほりいけ・ひろき)の4名だ。堀池を除く4名中3名が「eBASEBALL プロリーグ」に参戦しているプレイヤーだ。

 

(写真:新井の父は卓球アテネ五輪代表。自身もケガで断念するまでは卓球選手だった)

 準決勝第1試合は、オンライン予選1位の新井と同4位の堀池が対戦した。中日の新井は、エース大野雄大を、埼玉西武の堀池は若手右腕の髙橋光成を先発投手に起用。序盤は互いに無得点と緊迫感のある時間が続いた。

 

 試合が動いたのは3回裏。2死走者なしの場面で新井は、弾道の高い代打・福田永将を起用した。するとこの作戦が奏功した。プレイ画面には「カッキーン!!」と快音を響かせる文字が躍る。打った瞬間にそれとわかる当たり。強振を売りとする新井が、見事に先制弾を叩き込んだ。

 

 最終回(5回)まで1-0で新井中日がリード。堀池西武は先頭打者がツーベースで出塁し、同点のランナーを得点圏に置いた。しかし、堀池はこのチャンスを生かせなかった。

 

(写真:パワプロの解説はプロプレイヤーの吉田<右>が務めた)

 スリーバントで犠打を試みると、新井の素早いフィールディングで三塁封殺されてしまう。一塁に残ったランナーに代走を起用するも、牽制で刺された。最後は内野ゴロに終わり、万事休す。唯一のアマチュアプレイヤーで下剋上を狙った堀池だが、「自分のミスで負けた。素直に送っておけばよかった……。相手の方が一枚上手でした」と悔やんだ。

 

 準決勝第2試合はオンライン予選3位の山本が一発攻勢で2位の渡部を下した。東京ヤクルトの渡部、広島の山本。序盤、両軍ランナーは出すものの、ゲッツーなどで得点を奪えない。均衡を破ったのは3回表、山本だ。2死からホセ・ピレラのホームランで先制に成功した。4回表に堂林翔太のソロ、5回表に長野久義の2ランが飛び出した4得点。守っても相手をシャットアウトと攻守が噛み合い、決勝進出を決めた。

 

“守り勝つ”から“打ち勝つ”へ

 

 決勝は新井と山本というプロリーグに参戦した2人の対決となった。両軍先発マウンドには準決勝と同じ大野とケムナ誠を送った。先制したのは新井中日。1回裏2死で3番のダヤン・ビシエドの一発が飛び出した。甘く入ったストレートを見逃さず、バックスクリーン右に叩き込んだ。

 

(写真:ホームランを打った瞬間、思わずガッツポーズが飛び出した山本)

 すると山本広島も反撃。3回表に1番起用の鈴木誠也が逆転2ランを見舞った。4回裏にゲッツーの間に新井中日に追いつかれたが、5回表には準決勝で一発を打っていた堂林が見せた。1ボールからの2球目を強振した。バックスクリーンに突き刺さる一撃で3-2と勝ち越し、山本は右拳を握り締めた。その裏の守備はファーストに守備変更していた堂林のファインプレーが飛び出すなどゼロに抑えた。リードを守り切り、山本が初代王者に輝いた。

 

「本当にうれしい。まさか自分が優勝できると思っていなかった」と山本。2試合で計5本塁打と長打力が光った。元々は守備型の選手だったというが、大会に向けて打撃力向上に力を入れてきた。「“投げ勝つ”よりも“打ち勝つ”ことを意識して練習していました」。プロリーグでは5試合2本塁打だったが、「今日は失点しても“打ち返せばいいか”という気持ちでいられた」とマインドが変わったことも勝因だ。

 

 広島には大瀬良大地、野村祐輔、森下暢仁らエース格の先発ピッチャーがいるが、山本はケムナの先発にこだわった。その理由を聞くと、「ケムナ選手はパワプロ的に強い」と答えた。パワプロプレイヤーには、リアルの野球を経験し、野球的な戦略をとる者と、eスポーツに特化したパワプロ型の者がいる。小学4年から高校3年まで野球を経験していた山本は自らを「ハイブリッドの方だと思う」と評する。

 

(写真:生放送のMCはお笑いトリオ「パンサー」の向井<左>と、モデル・タレントで活躍中の高田)

 ケムナはストレートのMAX154kmでコントールはFとパワーピッチャータイプ。それでも高いナイスピッチ率を誇る山本にすれば、「自分はタイミングを取るのが得意。コントロールが悪くてもナイスピッチを出す自信がある」というのだ。今大会チームの“シリーズ男”は2試合2本塁打の堂林だ。彼もまた広角打法という特殊能力を持つ。「振り遅れても反対方向に強い打球が打てる。そういう選手は重宝しています」。選手特性を生かした起用がうまくハマったかたちだ。

 

 4月からは地元・熊本の企業で働くが、eスポーツの活動も続けていくつもりだ。

「スキルアップも図っていきたいですし、eスポーツを、その中でも特にパワプロを盛り上げていきたい」

 

 波乱含みのスタート

 

(写真:オンライン予選では前回王者の橋木を破るなど快進撃を見せた明神)

 8人で決勝大会を行ったウイイレは、前回王者が初戦敗退したオンライン予選同様に波乱含みのスタートとなった。第1回大会ベスト4、第2回大会準優勝で法政大の山田大智(やまだ・だいち)と、全国都道府県対抗eスポーツ選手権2020で優勝した大阪工業大の仮屋亮(かりや・りょう)が初戦(準々決勝)で敗れたのだ。

 

 ベスト4に残ったのは、札幌学院大の明神悠恵(みょうじん・ゆうけい)、日本電子専門学校の栁澤泉来(やなぎさわ・いずき)、松山大の松本悠甫(まつもと・ゆうすけ)、柴だ。

 

 準決勝第1試合は明神と柳澤のユベントス対決となった。明神はクリスティアーノ・ロナウドをトップではなく、トップ下に配置するフォーメーションが特徴的だ。これは前回大会準優勝の山田も用いていた起用法。ロナウドを意識させてセンターバックのマークを釣り出せれば、2トップの選手にスペースが与えられるという利点がある。ゴールから多少遠い位置からでも打ち抜けるシュート力があることも理由のひとつだろう。一方の栁澤はロナウドを2トップの一角に置き、フィニッシャーとしての能力の高さを買った。

 

(写真:プロ選手のうでぃ<右>は第1回大会に出場。「思い出深い大会」と振り返る)

 試合はロナウドのアシストからFWフェデリコ・キエーザが決めた明神が先制した。栁澤はロナウドのゴールで追いついたが、最後はゴールまでボールを奪われ、1-2で敗れた。栁澤は2月のオンライン予選Aグループ準決勝に続き、明神の軍門に下った。「リベンジができず悔しい。来年もチャンスがある。優勝目指して頑張りたい」と肩を落とした。

 

 準決勝第2試合は激しい点の取り合いとなった。バイエルン・ミュンヘンを選択した柴と、ユベントスの松本。先制は松本だった。試合前に松本は「相手は格上。先制して優位に進めれば勝機あり」と語っていたが、思惑通りの展開になった。

 

 しかし柴は前半のうちに逆転。一度は同点に追いつかれたものの、浮き球のスルーパスで裏をとり、右サイドのクロスから勝ち越しゴールを奪った。3-2で競り勝ち、前回大会の壁ベスト4を越えてみせた。

 

「アマチュア最強を目指す」

 

(写真:終始クールな表情を浮かべていた柴だが、試合後「緊張していた」と明かした)

 明神と柴との決勝は、落ち着いたプレイぶりが共通するものの、志向するサッカーは対照的だ。縦に速いカウンターで勝ち上がってきた明神に対し、柴はポゼッションサッカーにこだわる。前半はボール支配率68%と圧倒した柴が優位に試合を運んだ。

 

 前半12分、MFダヴィド・アラバが2列目の飛び出しから抜け出し、ゴールを決めた。トップにボールを当て、ボールをキープした。タメをつくり、ディフェンラインの裏を陥れた。鮮やかな先制点だった。37分にはペナルティーエリア付近での細かいワンツーからFWロベルト・レヴァンドフスキがゴールネットを突き刺した。

 

 前半終了間際にFWパウロ・ディバラのゴールで1点を返した明神だったが、後半開始早々に失点を喫してしまった。ボールを回す相手を止めるため、ファウルが重なり、退場者も出した。スコアはこのまま動かず、柴が3-1で勝利。ホイッスルが鳴り響いた瞬間、静かに両手を掲げた。

 

(写真:ウイイレの解説でお馴染みの元サッカー日本代表の北澤豪がウイイレ決勝戦の解説を務めた)

 柴は「前回は優勝できる自信があったのにベスト4で悔しかった」と見事にリベンジを果たした。ポゼッションサッカーを志向し、多彩なゴールパターンを披露。「簡単にボールを失うのではなくて、ずっと持って確実な攻めをするのが好き」。フォーメーションはトップと中盤の選手を中央に寄せ、サイドバックの縦のスペースをつくっていた。

 

「他の人にはない攻めをしたい」と柴。元々はカウンターサッカーを志向していた。「どんどん前へ、ワンツーで攻める感じでした」。2年前から、そのスタイルに限界を感じ、変更を決意したのだ。「ポゼッションに振り切り過ぎて、速い攻撃を仕掛けるべきところでもボールを回していたこともありました」。自陣でボールを回す際、ミスで失点に繋がってしまったこともあったという。

 

 柴は徐々に自らのスタイルに磨きをかけていった。「今回の決勝は完成度が高かった」。オフライン大会の緊張感に慣れ、理想に近いプレイができた手応えもある。「開催されるなら2連覇も狙っていきたいと思います」。過去3大会で連覇はまだ誰も達成できていない。

 

 第1回大会に出場した選手が、その後世界大会で活躍するなど登竜門的な位置付けもあるBS11CUP。だが、プレイヤーたちが目指す道はプロだけではない。柴は「プロになることに興味がないわけではありませんが、まずは“アマチュア最強”を目指したい」と意気込んだ。

 

 バージョンを更新中

 

(写真:大会運営・制作に参加した学生たちは各所に配備されていた)

 3回目のBS11CUPは従来の「ウイイレ」に加え、「パワプロ」とタイトルが増えるなど新しいかたちで展開された。新型コロナウイルス感染拡大を避けるため、初の無観客開催となった。大会統括のBS11松友大輔氏はこう振り返った。

「1回目はまず大会をスタートさせた。2回目は決勝を生配信、生放送しました。今回は生配信、生放送に加え、ゲームタイトルを増やしたことと、iU情報経営イノベーション専門職大学の学生と一緒に大会をつくり上げていきました」

 

 大会が学生たちにとって、貴重な場になっているのは間違いない。それは各部門の優勝者コメントからも明らかだ。

「とても有意義な大会でした。予選、決勝大会を経験することによって、“もっと上手くなりたい”と思う選手が絶対に出てくる。私もそのひとり。本当に開催してくださって感謝しています」(山本)

「これほど選手への待遇がしっかりしている大会は他にありません。セットを組み、ゲストの人も豪華。本当に素晴らしい大会だと思います」(柴)

 

(写真:大会応援サポーターの浅野<左>はプロプレイヤーmayagekaの指導を受け、オンライン予選に出場)

 貴重な経験をした学生は、選手だけではない。2020年4月に開校したばかりのiU情報経営イノベーション専門職大学とプロジェクトを組み、大会運営、制作を行った。「彼ら、彼女らの感性やスキルを活用し、力を合わせることができたらいいなと思いでスタートしました」(松友氏)。昨年12月の大会エントリー開始に合わせ、学内でBS11CUPプレ大会を開催。プレ大会の準備、運営、配信は学生が中心となり、プロモーションに貢献した。決勝大会ではイベント運営班、ゲーム進行班、映像制作班、会場運営班に分かれ、BS11のイベント制作および、番組制作の一員を担った。

 

 BS11CUPは毎回新しい試みに挑戦し、年々バージョンを更新中だ。「ここまで積み上げてきた手応えもあります」と松友氏。「我々としてはどんどん規模感を膨らましていきたい」と、これまで以上に参加選手を増やすことも目標としている。“継続と進化”のBS11CUP。急成長を遂げているeスポーツと共に、大会もさらなる高みを目指す。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

BS11では、今大会の決勝戦の模様を4月8日(木)正午までの期間限定で「BS11オンデマンド」にて無料配信中です。こちらもぜひご視聴ください。