第124回 SCスタッフの白球コラム「13年、楽天日本一の影に褒めて伸ばす指導あり」
2018年のドラフト会議で東京ヤクルト、巨人、北海道日本ハム、中日の4球団が競合した中日・根尾昂選手は今季3年目。初めて開幕1軍メンバーに入り、ここまで18試合に出場しています。打率1割3分2厘とバットの方は湿りがちですが、守備ではきらりと光るプレーを見せています。
6日、本拠地バンテリンドームで行われた横浜DeNA戦、初回2死二塁の場面、4番・佐野恵太選手が放った左前打に猛チャージ。そのままの勢いでワンバウンドでバックホームし、 俊足の桑原将志選手の本塁で刺しました。試合後、このプレーを振り返った与田剛監督は「まるで根尾レーザー。素晴らしいプレーだった」とべた褒めでした。
根尾選手は高校時代、投手、内野手、外野手の"三刀流"で鳴らしましたが、プロ入り後は野手一本に絞り、今季はキャンプからショートの練習を続けていました。だが、レフトを守るはずだった新外国人マイク・ガーバー選手の来日が遅れ、根尾選手が外野へ。不慣れなポジションゆえ、3月28日の広島戦では、フライに追いつきながらも落球するまずいプレーもありました。だが、与田監督は「すべては使っている監督の責任。選手はどんなときも思い切ってプレーするだけ。うまくいかなくても使っていくので、練習して反省して(ということ)を、日々繰り返してほしい」とかばいました。
与田監督の言動からは根尾選手を「褒めて伸ばす」方針であることが伺えます。
褒めて伸ばす--。言うは簡単ですが、いざ実行するとなれば難しいものです。しかも厳しいプロの世界となればなおさらです。失敗すれば叱責されるのは当然ですが、若手選手はそれで萎縮し、伸び悩んでしまう例も少なくありません。
13年、東北楽天が創設初のリーグ優勝と日本一に輝いたこの年、セカンドのレギュラーとして活躍したのが藤田一也選手でした。
藤田選手は12年途中、横浜からトレードで楽天にやってきました。横浜時代から守備には定評がありました。楽天の内野守備コーチを務めていた鈴木康友さんも「グラブさばきとスローイングは一級品。ポジショニングもいい」と舌を巻き、「二塁のレギュラーは藤田だな」と決めました。
どうやって育てるか? 悩んだ鈴木さんはキャンプ中に一計を案じました。キャンプで野手組は4人一組になり、守備練習もバッティング練習もこの4人が一緒に行います。レギュラーボーダーラインの藤田選手は、普通ならば他の1軍半の選手と競わせる組み分けになるところですが、鈴木さんはアンドリュー・ジョーンズ選手、ケーシー・マギー選手、松井稼頭央選手と同組にしたのです。言うまでもなく3人とも元メジャーリーガー、不動のレギュラーです。ビッグネームと組ませたのは、どんな狙いがあったのでしょう。
「メジャーリーガー3人を先生にしたわけです。そのキャンプで私は藤田に何も教えませんでした。ただノックを打っていただけ。でも、彼が捕るたびにジョーンズやマギー、稼頭央が“ナイス!”“クール!!”と褒めまくるんですよ。横浜時代もレギュラー選手じゃない藤田にとって、練習中に褒められることはそうなかったと思います。"もっとああしろ、こうしろ"と言われることも多かったと思います。でも、それじゃ選手は伸びないんですよ。だから私はマギーたちと同組にした。メジャーリーガーに褒められてい気はしませんよ。自信をつけたんでしょう。藤田は日に日に動きが良くなっていきましたよ」
ビッグネームと一緒に練習させれば自信を掴むだろう--。鈴木さんの狙いは見事に的中しました。シーズンに入ってもハツラツとしたプレーを見せた藤田選手。レギュラーの座をつかみとり、この年から3度、ゴールデングラブ賞を受賞する名手に成長しました。
褒められて伸びてくる、今季もそんな若手の出現を楽しみに見守りたいものです。
(文・まとめ/SC編集部・西崎)