本日はプロ野球の話題から。

 阪神タイガースのプロ2年目“ドラ1ピッチャー”西純矢が5月19日の東京ヤクルトスワローズ戦(甲子園)でプロ初登板初先発してプロ初勝利を挙げた。岡山・創志学園高卒の19歳8カ月。阪神の10代初登板初勝利は、2012年の岩本輝以来だという。

 5回を投げ切って勝ち投手の権利を得たところで交代。初回にいきなり連続四球を与え、どうなるかと思いきや、徐々に安定した。結局は無安打無得点で乗り切った。

「ヒット打たれてないんやから、もうちょい投げさせてもエエやろ!」

 そんな虎ファンの声も聞こえてきそうだが、これは矢野燿大監督の配慮。次回の登板につなげるためだと考えていい。

 

 同じ夜、JリーグのYBCルヴァンカップでも10代の選手が活躍した。

 横浜F・マリノスのルーキー、樺山諒乃介である。今春、大阪・興國高を卒業したばかりの18歳。グループステージ最終戦となる清水エスパルス戦(ニッパツ三ツ沢)で2ゴールを挙げた。1点目はレオ・セアラのシュートがバーに弾かれたところをヘディングで押し込むと、2点目は天野純のスルーパスを受け取って右足で決めている。これでルヴァンカップでは3得点目となり、得点ランキングのトップに並んだ。

 後半30分までプレーして、仲川輝人と交代。75分間のプレーは「最長」だった。

 樺山は王者・川崎フロンターレとのリーグ開幕戦(2月26日)に、F・マリノスの高卒ルーキーとしては長谷川アーリアジャスール以来、実に14年ぶりにスタメン出場を果たして注目を集めた。だが前半だけで交代し、以降リーグ戦において先発出場はなく、ベンチ入りできない状態が続いている。それでも今回のエスパルス戦のパフォーマンスを見れば、彼が順調に成長していることはよく分かる。

「ハットトリックできそうだからもうちょっとプレーさせてもいいじゃん!」

 そう思ったファンがいるかもしれない。ケガ明けの仲川輝人を途中から起用したかった意図もあるだろうが、アンジェ・ポステコグルー監督が徐々に樺山のプレー時間を伸ばしている配慮も見えてくる。

 

 野球にしてもサッカーにしても10代選手の起用はいろいろと考えなければならないということ。プロとして戦うフィジカル、メンタルを築き上げている最中であり、間違ってしまえばせっかくの才能をつぶしかねない。

 現在は横浜FCでプレーする中村俊輔のプロ1年目を思い出す。

 1997年に神奈川・桐光学園から横浜マリノス(当時)に入団。エスパニョールやチリ代表、ボリビア代表などを率いたスペイン人監督ハビエル・アスカルゴルタのもと、開幕2戦目から出場機会を得るようになる。

 中村はこのように語っていた。

「最初はサテライトで修行するのかなと思っていたら、監督が使ってくれた。途中出場で入っていくことが多くて、そのうちに先発で起用されて。でもゴールとか、アシストとかしても決まって60分、70分で交代させられる。体の線は細かったけど、自分としては“体力がない”ってレッテルを貼られているみたいで納得がいかなかった。交代を告げられてベンチに座ると、明らかにぶすっとしていたし。でもそれに対して監督は何も言わなかった」

 結果を残しても、決まって途中交代となることは不満だった。メンタル面もまだ大人になりきれていないため、感情を隠せないところもある。規律の観点からその態度を問題視する指揮官であれば、起用をやめていたかもしれない。アスカルゴルタは継続して中村を使い続け、彼はその年の優秀新人賞を獲得している。

 のちに中村は欧州でプレーするようになり、日本代表の中心選手になっていくのはご承知のとおり。アスカルゴルタと再会した折、早めの交代の理由を直接尋ねたそうだ。

「アスカルゴルタは“壊したくなかったから”と言ってくれた。プレーのいいイメージのまま交代させて、こっちがもう少しやりたかったっていうメンタルのまま1週間、練習をやって、また試合でいいプレーをするようにする、と」

 もっとプレーしたい――。その強い欲が次の試合に向けたパワーを生み出していたのだと気づかされた。

 成長を呼び込むための起用法。

 慎重に、徐々に。

 時代が流れても、その原理原則は変わらない。


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