サッカーというスポーツは、先に点を奪ったほうが有利になる。相手を崩して取ろうが、セットプレーで取ろうが「1点」であることに変わりはない。

 J1の“首位攻防第2ラウンド”5月4日、等々力競技場で行なわれた川崎フロンターレと名古屋グランパスの一戦。4-0とフロンターレが圧勝した4月29日の“第1ラウンド”は見事なパスワークから先制点を奪い取ってその後も得点を重ねたが、この日はセットプレーが号砲を鳴らす形となった。

 前半31分、左コーナーキック。田中碧がインスイングのボールを送ると、センターにいる谷口彰悟を越えて、奥で待ち受けていたジェジエウへ。ヘディングで合わせてゴールをこじ開けた。ジェジエウもDAZNのフラッシュインタビューで「いいボールが来てしっかり高い位置で捉えることができた」と満足げに語っていた。ここから2点を追加して3-2で勝利している。

 

 セットプレーから得点のにおいはしていた。

 前半12分の右コーナーキック。キッカーの田中はニアでゴールから離れた位置にいた谷口に送り、ヘディングでファーにそらしたボールに家長昭博が飛び込んでいる。ゴールにはならなかったものの、これは準備してきたパターンだったはず。名古屋の選手たちの意識を谷口のほうに向けさせたうえで、次はジェジエウ。もちろん相手や状況を見ての判断になるが、「戦略」を感じ取ることができた。

 昨シーズン、攻守に圧倒してリーグ制覇を飾ったフロンターレだが、セットプレーによる得点も多かった。鬼木達監督がセットプレーを重視していることは明白で、そのバリエーションも豊富。鮮やかな連係や個人技によって生まれる得点シーンのほうに注目が集まるものの、今シーズンも変わらずセットプレーは大きな武器になっている。谷口、ジェジエウ、レアンドロ・ダミアン、小林悠と空中戦に強い選手が多い一方で、質の高いボールを蹴るキッカーがいるというのが強み。脇坂泰人もいいが、田中もいい。キックの質のみならず、駆け引きのうまさも目を引く。

 

「コーナーキックからのゴール」という括りでJリーグを振り返ると、筆者が今も強烈な印象として残っているシーンがある。

 2017年9月16日、FC東京―ベガルタ仙台戦。右コーナーキックからニアにポジションを取ったチャン・ヒョンスがヘディングでゴールを挙げ、これがFC東京の決勝点となった。

 キッカーを務めたのがレフティーの太田宏介。相手に前後挟まれていたニアのチャン・ヒョンスにピタリと合わせた極上のキックであった。

 試合後、太田にこの場面のことを尋ねた。

「相手はゾーンで守っていて、ニアが厚めでした。それでもヒョンスとは“行こう”という話をしていたので、スポットにちょうど落とすボールを蹴ろう、と。速すぎず、遅すぎずのスピードで、引っかけるようなイメージでした。セットプレーは合わせる人との呼吸だと僕は思っています。コミュニケーションと練習をどれだけやっておくかが大事」

 コミュニケーションと練習の積み上げで信頼関係を構築してきたからこそ、あのゴールがあった。

 フロンターレのセットプレーを見ても、お互いの信頼関係を強く感じる。コミュニケーションと練習の積み上げがジェジエウのゴールに結びついたと言える。

 

 先の日本代表でもセットプレーからゴールが生まれている。

 A代表の韓国戦(3月25日)では江坂任の左コーナーキックを遠藤航がヘディングで合わせてトドメとなる3点目を奪い、U―24日本代表のU-24アルゼンチン代表戦(第2戦3月29日)では久保建英-板倉滉のホットラインでいずれも左コーナーキックから2ゴールを挙げて勝利に結びつけている。

 流れの中で相手をどう崩すかも大事だが、セットプレーもまた大事。

 J1を独走するフロンターレを見ても、日本代表、U-24代表を見ても、つくづくとそう感じる。久保や田中ら、若くていいキッカーが日本にはいる。セットプレーをもっと“深掘り”して、しっかりと武器にしてほしいものである。


◎バックナンバーはこちらから