攻撃のタクトをふるうトップ下のポジションはよく「王様」と表現される。

 日本代表では長い間、中村俊輔が担い、アルベルト・ザッケローニ監督時代には「本田圭佑と香川真司、どちらがふさわしいか」などとちょっとした議論の対象にもなってきた。

 システムが4-2-3-1なら、1つしかない「3」の中央のポジション。「どちらが」という発想自体、もう時代遅れなのかもしれない。鎌田大地と南野拓実の関係性を見ているとそう強く感じてしまう。

 

 最近は「トップ下・鎌田、左サイドハーフ・南野」に入るパターンが多い。

 カタールワールドカップアジア2次予選突破を決めた5月28日のミャンマー代表戦(フクダ電子アリーナ)。10発、大量得点の号砲を鳴らしたのが前半8分の先制点のシーンであった。

 鎌田は吉田麻也から縦パスを受けるとワンタッチで左にいる南野へ。ドリブルからリターンが来ると、またもワンタッチでスペースに送って南野のゴールをアシストした。実に息の合ったコンビネーションだった。

鎌田自身も終盤に1ゴールを挙げているが、基本的には周囲の選手が働きやすいように動いていた印象が強い。良い意味で、王様感がまるでない。南野が中に入ってきたら、自分が左に回るなどケアしていた。今季、スタメンを張ってきたフランクフルトでも12アシストをマークしている。ミャンマー代表とは力の差が歴然としていたことは差し引かなければならないとしても、味方をうまく使う彼がトップ下にいることで攻撃がガッチリとかみ合っていた感がある。

 

 鎌田は自分の役割をどう認識しているのか。

 3-0と快勝した3月25日の韓国代表戦(日産スタジアム)後のオンライン会見で彼はこのように語っていた。

「拓実くんと話していたのは、(南野が)中に入ってきたら自分が左に行く。(伊東)純也くんが右に張っているから、できるだけ自分が(中央の)右に行って、2枚でトップ下が理想だとは喋っていた。やりづらさはなかった」

 

 周りを見ながら、自分のやるべき仕事を見つけていく。フランクフルトでやっていることをそのまま日本代表でも出している。ときにボールをキープして、ときに球離れを早くして時間と味方を操る。周りがスピードを上げれば逆に緩めてスペースに入っていくのも効果的。つまり空間を操るのもとてもうまい。

 

 日本代表はミャンマー戦の後半途中からシステムを変更している。森保一監督はセンターバックの前にアンカーを置いて、鎌田と南野をインサイドハーフでプレーさせた。以前は「鎌田1トップ」というオプションもあったが、今はトップ下、インサイドハーフが軸だ。これは周囲を使える彼の特性を考えても良策だと感じる。

 昨年、彼にインタビューした際もこのように語っていた。

「代表でやるんだったらトップ下かボランチの6番のところが、自分には一番合っているのかなとは思います。フォワード(が適正)だとは思っていないですね。僕は後ろのほうがやれると感じています」

 トップ下で自分の仕事ぶりを示して評価を得てきたことで、このポジションを勝ち取ったと言える。インサイドハーフもハマっているだけに、日本代表のオプションとなっていきそうだ。

 

 コロナ禍によって活動を制限されてきた日本代表にとっては貴重な6月シリーズとなる。3日のU―24日本代表戦(札幌ドーム)、7日にはアジア2次予選タジキスタン代表戦(パナソニックスタジアム吹田)、11日には国際親善試合セルビア戦(ノエビアスタジアム神戸)、15日にはアジア2次予選キルギス戦(吹田)と試合が続く。既に2次予選突破を決めているとはいえ、9月からスタートするアジア最終予選に向けてベースアップを図っていかなければならない。気が利く王様、鎌田大地を中心に据えるチームづくりが進んでいく可能性は十分にあると言っていい。


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