森保一監督率いる日本代表は5月28日からの怒涛の5連戦を全勝で乗り切った。

“最終戦”となったカタールワールドカップ、アジア2次予選のキルギス戦(6月15日)。筆者が注目したポジションがGKであった。ミャンマー戦で1年半ぶりの国際Aマッチ出場となった38歳のベテラン、川島永嗣か、それともU―24代表戦に45分間ずつゴールマウスを守ったシュミット・ダニエル、中村航輔か、またはタジキスタン戦(2次予選)、セルビア戦に連続して出ている正GKの権田修一か。

 個人的にはシュミットを予想していたが、森保監督は川島を選択。ミャンマー戦と同様に守備機会はそう多くなく、PKで1点を失ったとはいえ、無観客のスタンドには野太いコーチングが響いていた。さすがの存在感だったと言える。最終ラインには昌子源以外、代表経験の浅い選手たちが並んだことも背景にあったのかもしれないが、それもこれも川島に対する信頼があるからだ。

 

 38歳にして上昇気流にある。

 フランス1部ストラスブール3季目の2020~21年シーズンは正GKのケガもあって、24試合に出場。クラブの1部残留に貢献し、2023年6月までの契約延長を勝ち取っている。クラブが川島のパフォーマンスを高く評価していることがよく分かる。前年の19~20年シーズンは出場機会がなかっただけに、日ごろからの徹底した準備が実を結んだと言える。

 川口能活、楢崎正剛に続く、ワールドカップ4大会連続出場も視界に入ってきた。前回のロシアでも歴代ワールドカップメンバー最年長だったが、川島より年上の選手が入ってくることは現実的に考えにくい。39歳で選ばれれば自らの日本人最年長記録を更新することになる。川口、楢崎はメンバーに選出されたものの試合に出場できない大会があったが、もし川島がカタールW杯でピッチに立てば日本サッカー初の「4大会連続出場」ともなる。

 

 GKは息の長いポジションだ。

 現在開催中のEURO2020を見るとイタリア代表、22歳のジャンルイジ・ドンナルンマら若手が台頭している一方で、ドイツ代表マヌエル・ノイアー(35歳)、フランス代表ウーゴ・ロリス(34歳)、デンマーク代表カスパー・シュマイケル(34歳)ら30代半ばの守護神も健在だ。イタリアの名GKジャンルイジ・ブッフォン(43歳)がEUROの舞台にいないのはどこか寂しいが、彼は代表引退を一度撤回して40歳で復帰している。

 

 昔、川口能活に聞いた話がある。

 当時のイングランド2部ポーツマスに移籍して欧州に飛び込んでみると、40代のGKが少なくなかったことで「32歳くらいで引退」という考え方をあらためることになった、と。

「イングランドに来て良かったなと思えたのは、GKというポジションについて深く考えさせられたこと。(ポーツマスの)GKコーチは6部チームにも所属する現役で、他のGKを見ても、何かチームに安心感を与えるプレーをしていることに気づかされた。僕はスキルアップしなければ上達はないと思っていましたが、バシバシとシュートを止めるだけが仕事じゃないんだな、と。間のつくり方とかもそうだし、スキルだけじゃないものを学ばせてもらった」

 若さだけでは補えないものがあるということ。経験値、技術、読み、影響力が重視されるポジションでもある。実際、GKとして高みを目指した川口は43歳まで、楢崎は42歳までプレーを続けている。

 

 2014年のブラジルワールドカップが終わった際、川島にインタビューしたことがある。そのとき語っていたのが、日本代表に対する思いだった。

「僕にとって日本代表は特別な場所だし、それは変わらない。大切なのは、今回の(ブラジルでの)経験を日本サッカーの経験としてどうやって4年後、8年後、もっと先に伝えていけるかどうか」

 経験を伝えていく責任。その思いは昔も今も変わらない。川島永嗣の情熱が衰えることはない。


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