サッカーファンは毎日、寝不足のことだろう。

 熱戦続きのEURO2020に加えて、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)東地区グループステージも開幕。6月29日深夜、筆者はEUROベスト16のイングランド対ドイツにチャンネルを合わせる一方で、モバイルではACLの川崎フロンターレと北京FCの一戦をチェックした。ドイツを沈めたイングランドの2発は実に鮮やかだったが、本日はフロンターレのことを語らせていただきたい。

 逆転勝ちした初戦の大邱FC戦から中2日。フロンターレは若手中心の北京FCに対して先発6人を入れ替えて臨んだ。長谷川竜也のゴールを皮切りにルーキー橘田健人や今季J1の出場が2試合にとどまっている山村和也らも次々に決め、7―0と大勝。1トップの小林悠が前半途中に左ひざを痛めて負傷交代となったものの、投入された知念慶が2得点と活躍した。イサカ・ゼインからのクロスを高い打点で合わせてゴール左に放り込んだ後半14分の知念のヘディング弾は迫力十分であった。

 層が厚いと言ってしまえばそれまでだが、先発機会の少ない選手たちの思いが伝わってくるようだった。北京FCとの実力差は歴然としていたとはいえ、このチャンスを逃がすまいと必死だったことはシュート数24対2というデータにも表れている。

 

 “サブ組”たちの猛アピールは、鬼木達監督を喜ばせたに違いない。

 指揮官にも現役時代、鹿島アントラーズではなかなかポジションをつかめなかった経験がある。日本代表の活動でメンバーが抜けると、チャンスだと思ってネジを巻いたという。

 フロンターレは6月のA代表、U―24代表の活動によって、谷口彰吾、山根視来、三笘薫、田中碧、旗手怜央の5人がチームから離れた。主力がいなくなるのは痛いものの、逆に誰がその穴を埋めてくれるかを指揮官は楽しみにしていた。

 6月2日のJ1第21節、アウェーの横浜FC戦。2年目のイサカを先発でJ1デビューさせ、橘田も3カ月ぶりに試合の頭から起用するなどメンバーを入れ替えてきっちりと2-0で勝利を収めた。終盤には2年目の神谷凱人をJ1デビューさせている。

 選手起用のマネジメントについて鬼木監督に尋ねた際、こう語っている。

「(代表活動で)選手がいなくなるのはチームとしてキツいところはありますけど、残った選手にとってはアピールするチャンス。僕の現役時代の鹿島がそうでした。代表戦になると選手がいなくなるので、ここは頑張らなきゃいけないと思いましたから。それでもチャンスが巡ってこないことはありますよ。指導者になっても、その気持ちは分かります。だけど選手は頑張ってやっていくしかいないし、その頑張りを見ていくことが自分の役目」

 

 出番の少ない選手には、モチベーションを維持していく難しさがある。鬼木監督もその気持ちを痛いほど理解している。だからこそ公平に「頑張りを見る」ことで選手たちのモチベーションを維持させているように感じる。

“見る”だけではなく、“示す”ことも大切にしてきた。

「選手のことをしっかり見ているという自負はあります。日ごろのトレーニング、全体練習後の自主練習や日ごろの振る舞い。しっかり見たうえで選手選考をしています。ウチはハードワークや技術レベルもそうですけど〝ここのレベルに達しないと出られない〟というのをみんな分かってくれています。そしてずっとやり続けないといけないってことも」

 指標が分かっているから、選手たちも納得できるというわけだ。

 

 チームの中心を担ってきた田中碧がドイツ2部デュッセルドルフに期限付き移籍でチームを離れ、ACLには参戦していない。大きな痛手には違いないが、ここにはアピールに燃える選手がたくさんいる。ACLの過密日程もこれまで出番の少なかった選手たちにとっては絶好のチャンスとなってくる。

 勝ちながら若い選手たちの経験を積み上げていく鬼木フロンターレ。常勝軍団はさらなる高みへと向かっていく。


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