今年の全国高等学校野球選手権大会、いわゆる夏の甲子園は8月9日に開幕します。すでに北北海道と南北海道では地方大会が開幕し、この後は全国各地で甲子園行きの切符をかけた熱い戦いが始まります。

 

 昨年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響でセンバツが中止になり、夏の大会も開催されませんでした。センバツ出場校が特別に1試合ずつ甲子園で試合を行いましたが、やはり選手権大会があってこその日本の夏、との思いを改めて感じたものです。

 

 特に3年生にとって夏の大会は特別です。負ければそこで終わりですから、地方大会の1回戦からドラマがあります。3年生の夏について、現在、立教新座高(埼玉)で臨時コーチを務める鈴木康友さんはこう語っています。鈴木さんも天理高(奈良)で春夏4度、甲子園の土を踏みました。だが、3年生の夏は県大会準々決勝で敗れました。

 

「3年生にとって夏の大会は特別です。これまでずっと一緒にやってきた仲間との野球が、負けた時点で終わるわけですからね。全国の頂点に立つのは1校だけですから、その他の高校は負けてユニホームを脱ぐ。そこに様々なドラマがあります。去年、コロナの影響で夏の甲子園が中止になりました。地方大会は開催されましたが、やはり甲子園という目標の有無は、球児たちの心に微妙に影響したでしょうね。それは保護者の方々も同じですよ。

 

 小学生の頃から学童野球の世話で送迎やお弁当作り、練習の手伝いなど、それこそ家族全員でサポートしてきたことでしょう。だから選手だけでなく、保護者にとっても3年生の夏というのは特別なんですよ。勝って喜び、そして最後は泣いて悔しがる。しかもスタンドから応援し、最後まで見守る。それが区切りになるわけです。去年は無観客でそうした機会も得られませんでしたから、今年は状況次第ですが保護者の皆さんはスタンドから我が子の最後の夏を見守れるようになることを祈っています」

 

 夏の特別感について、この人にも聞きました。PL学園(大阪)のエースとして78年夏の全国制覇に貢献しました。

 

「甲子園というところは人生を変える力を持っています。特に夏の大会は注目度も高いから尚更ですよ。お盆の時期に親戚が集まり、地元の学校のプレーに一喜一憂する。それが日本の夏という感じです。それだけ注目度の高い夏の甲子園ですから、出場すれば人生が変わることは間違いありません。私だって夏優勝を果たし、その後、法政大から広島へと野球人生がつながっていきましたからね。
 少し前に将来有望なピッチャーが地方大会で投げず、甲子園出場を逃した高校がありましたね。選手の将来を考えた監督の思い、また選手全員も納得した上での登板回避ですから外野がとやかく言うことではありません。でも、ひとつだけ言えるのは、もしエースが登板し、地方大会を勝ち進み甲子園に出ていたら、チームの何人かの人生は変わっていたでしょう。甲子園に出たことで大学推薦が来たかもしれないし、社会人の道があったかもしれない。まあ、中には甲子園に出たことで天狗になって、違う意味で人生の変わるヤツもいます(笑)。まあ、それも含めて、夏の甲子園というのは魅力があるということですよ」

 

 今年、2年ぶりに聖地に球児たちの真剣勝負が戻ってきます。日本の熱い夏の始まりです。

 

 

(文・まとめ/SC編集部・西崎)


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