「〇〇オリンピック経由、〇〇ワールドカップ行き」という言葉がある。

 つまり目標はあくまでその先のワールドカップにあるということ。オリンピックの経験を踏まえてA代表の主力に成長していくことが期待されている。

 だがこれまで90人近く招集されてきた―選手のなかで東京オリンピックへのチケットを手にできたのは22人しかない。ならばこの22人以外はワールドカップ行きが遠のくのかと言うと、まったくそうではない。

 

 原口元気を見ればいい。2012年のロンドンオリンピックのメンバーから落選したが、彼は2018年のロシアワールドカップでレギュラーを張り、決勝トーナメント1回戦のベルギー代表戦でゴールを挙げたことは記憶に新しい。無類のタフネスは、今なお森保ジャパンにとって欠かせない存在だ。

 大迫勇也を見ればいい。彼もロンドンのメンバーから外れている。この悔しさをバネに2014年ブラジルワールドカップ、続くロシアと2大会連続で出場し、不動のエースとして君臨している。随分前になるが、彼にロンドン落選のことを尋ねたことがある。

「悔しい思いをすることは大事だし、それを活かすも殺すも自分次第だとは思う。これからいかに頑張るかじゃないですか。サッカーのことは、サッカーでしか取り返せないから」

 

 活かすも殺すも自分次第、サッカーでしか返せない--。

大迫や原口たちは「悔しさ経由」でワールドカップにたどり着き、そしてその大舞台で輝きを放ってきた。だからこそ今回、東京オリンピックのメンバーから外れた選手たちにもしっかりと「悔しさ」を刻み込んで、前に進んでもらいたい。

 

 早速、選手たちの「意地」を見た思いがしている。

 7月11日(J1第22節)にレモンガススタジアム平塚で行なわれた湘南ベルマーレとFC東京の一戦。0-0で迎えた後半途中、22歳の田川亨介がピッチに入ってきた。彼は3月に行なわれたU-24代表の強化試合(U-24アルゼンチン代表戦)でもメンバーに入っていたが、18人枠プラス4に食い込むことはできなかった。

 後半38分だった。

 ディエゴ・オリヴェイラがカットしたボールは一度相手に渡りながらも、そこを田川が猛然と食らいついてボールを奪い取ると、そのまま競り合いながら左足でレアンドロにパス。ここから永井謙佑の決勝ゴールが生まれている。田川の気持ちの入ったプレーが、呼び込んだと言える。

 またこの試合、相手に決定的なチャンスをつくらせなかった渡辺剛の守備も光った。彼も田川同様にU-24アルゼンチン代表戦のメンバー。気持ちを切り替えて「落選」をモチベーションに変換していることが伝わってくる。

 

 現在リーグ戦6連勝中の横浜F・マリノスに視線を移すと、ボランチで起用されている岩田智輝が効いている。大分トリニータから移籍して右サイドバックで開幕を迎えたものの、定着できなかったこともあってか今年はU-24代表メンバーに呼ばれていなかった。

 持ち味であるユーティリティーぶりを発揮してようやくF・マリノスのサッカーにフィットしてきた。吸収力が高いだけに、今後の飛躍が期待される一人だと言っていい。

 彼らばかりではない。柏レイソルは11日(J1第22節)にホームで行なわれた鹿島アントラーズ戦に2-1と勝利したが、左ストッパーの古賀太陽が奮闘していた。気持ちが伝わってくるようであった。

 

「悔しさ経由ワールドカップ行き」には、2008年の北京オリンピックで落選したものの、2014年のブラジルワールドカップに出場した青山敏弘がいる。

 彼にインタビューした際、当時の思いを語ってくれたことがある。

「自分はエリートでも何でもないし、挫折が初めてでもない。逆にターニングポイントにして、いい方向に持っていけるように努めようと思いました」

 自分でターニングポイントにしたからこそワールドカップ出場やサンフレッチェ広島の黄金期到来を呼び込むことができたのだ。

 落選を、ターニングポイントに。

 9月からはA代表のカタールワールドカップアジア最終予選も始まる。

 1年後、「悔しさ経由」でワールドカップに届く者は誰か--。


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