交流戦最下位が決定した広島にあって、唯一といっていい“希望の星”が新人クローザー栗林良吏の奮闘である。

 

 

<この原稿は2021年7月5日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

 

 6月10日、敵地での福岡ソフトバンク戦では1対1の9回裏に登板し、無失点。開幕からの連続無失点を22に伸ばし、球団新記録を樹立した。だが、13日のオリックス戦でサヨナラ負けを喫し、記録は途絶えた。

 

 6月16日現在、24試合に登板し、12セーブ、防御率0・37。セーブ数は阪神のロベルト・スアレスの21に大きく遅れをとっているが、これはチームが弱いためだ。奪三振率14・05が示すように、ここぞの場面で三振がとれるのが、彼の最大の強みである。

 

 登板した23試合の中には、“イニングまたぎ”も含まれている。「3つアウトを取るのと4つ取るのとではまるで違う」。継投の名手として知られる権藤博から、かつて、こんな話を聞いたことがある。

 

「クローザーなら8回の途中から登板し、一度ベンチに下がって味方の攻撃が終わるのを待つ。時間にすると10分くらい。あの10分間の待ち時間がいかんのですよ」

 

――リフレッシュするのに、いい時間ではないのか?

 

「それが逆。ピッチャーは余計なことを考え始めるんです。そこに魔物が忍び寄る……」

 

 98年、権藤率いる横浜は38年ぶりのリーグ優勝、日本一を果たした。MVPは45セーブをあげた“大魔神”こと佐々木主浩だ。

 

 有名な逸話がある。巨人・長嶋茂雄監督は8回が終わった時点で横浜に負けていると、「今日は終わりだ」と言って帰り仕度を始めたという。

 

「8回2死で7番の僕が打席に向かう時、本当にベンチからいないことがありました」

 

 とは現・巨人ヘッドコーチの元木大介。

 

 権藤によると、その佐々木でも“イニングまたぎ”をさせると「突然、四球を連発することがあった」という。栗林が修羅場に直面するのは、これからか……。

 


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