今年の大学生・社会人ドラフトは愛媛にも朗報がやってきました。リーグ最多勝(15勝)をマークした梶本達哉がオリックス・バファローズから育成指名を受けることができました。指名の瞬間の喜びは、半月近くが経った今でも、はっきりとよみがえってきます。みなさんには感謝の気持ちでいっぱいです。

 梶本を初めて見たときから、彼には可能性があると僕は信じていました。投げ方もきれいで、ヒジの使い方もやわらかい。何より長身から投げ下ろすボールに角度がある。経験を積めば、必ずNPBに行けるピッチャーだと思って接してきました。

 今年の開幕戦、梶本を開幕投手に指名したのも、そんな期待があったからです。開幕戦こそ、4失点で負け投手になりましたが、その後も1年間、ケガなくローテーションを守りきりました。この点はひとつのアピールポイントになったはずです。

 シーズン当初の課題は心身のコントロール。先発で序盤はいい内容でも、5回ごろから、とたんに勝ちを意識してソワソワし始め、不安定なピッチングになっていました。9回までどう投げるかといったペース配分も掴めていなかったのでしょう。

 それが登板を重ねるにつれ、7回、8回、9回とイニングを伸ばしても安心して見られるようになりました。特に初完投した5月31日の徳島戦は転機になったはずです。その後、後期にかけて、彼の勝ち星は一気に伸びました。1年間で心身ともに本当にたくましくなりましたね。

 正直言って、もう1年、四国でプレーすればリーグを代表する右腕として、昨年の深沢和帆(香川−巨人)のように、本指名を勝ち取れる逸材です。とはいえ、その保証は100%ではありません。育成指名ではありますが、思い切ってNPBの世界に飛び込み、才能を開花させてほしいと願っています。

 オリックスに入れば、練習環境も生活環境もアイランドリーグとは比較にならないほど充実しています。まだ梶本は線が細いですから、たっぷりごはんを食べて、下半身中心に太い体をつくることがひとつの仕事になるでしょう。

 彼の持ち味はなんといってもストレート。現在、MAX149キロの球速は、鍛えれば150キロ台が必ず出るようになります。梶本はフォーク、スライダーも悪くないだけに、四国では変化球に頼る傾向がときどき見られました。でも、変化球はストレートあってのものです。NPBでも直球を磨くことを忘れてはいけません。

 梶本の第一目標はまず支配下登録を受けることです。プロは1軍の試合に出てなんぼ。支配下に入らなければ、1軍で投げることすら不可能です。

「来年の6月まで支配下登録、そして夏には1軍初登板」
 ルーキーイヤーは、こんな青写真を描いてシーズンをスタートさせてほしいと思います。「1年は育成で、2年目から」という気持ちではダメです。

 NPBの先輩としてひとつアドバイスすることがあれば、「遠慮は禁物」ということ。僕はルーキー時代、自主トレから投げる、打つ、走るといったすべての面で他の新人や先輩より、いいところを見せようと心がけました。

 言うまでもなくプロは実力の世界です。先輩だろうが、誰だろうが押しのけるくらいの思いでやらないと、埋没してしまいます。梶本はおとなしい性格をしていますから、NPBの雰囲気に飲まれないか少し心配です。無理してケガをしてはいけませんが、自主トレからが勝負のつもりで、どんどんアピールしてもらいたいですね。

 オリックスは現在、Bクラスに低迷し、決して投手力も磐石のチームでありません。チャンスは充分にあります。それは掴むかどうかは、これからの梶本次第。彼の成功を心から祈っています。


沖泰司(おき・やすし)プロフィール>: 愛媛マンダリンパイレーツ監督
 1961年1月5日、松山市出身。松山商、明治大を経て社会人のスリーボンドで頭角をあらわし、チームの主軸を務める。86年ドラフト4位で内野手として日本ハムファイターズに入団。90年の退団までに投手以外のポジションは全てこなし、ユーティリティプレーヤーとして活躍した。アイランドリーグでは初年度に愛媛マンダリンパイレーツのコーチを務め、2年目からは監督に就任。07年シーズンは前後期ともチームを2位に押し上げた。



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