一般社団法人日本パラスポーツ推進機構は、<スポーツ(パラスポーツ)を通して、障がい者の社会参加を広げ、活力ある社会を創造>することを目的に設立された。農福連携事業への就労促進など、障がいのある人に対する自立支援にも力を注ぐ。今年5月には、障がいのある人の健康促進と自立支援について理解を深めるスペース「ウェルネスステーション東京2021」を東京駅八重洲口に開設するなど、各種イベントを通じて情報発信を行っている。代表理事を務める砂野吉貞氏に、同機構が目指す「持続可能な共生社会づくり」について訊いた。

 

伊藤数子: 2016年に日本パラスポーツ推進機構を設立されたきっかけは何だったのでしょう?

砂野吉貞: 日本パラリンピック委員会副委員長で、日本障がい者スポーツ協会常務理事の髙橋秀文さんとの会話がきっかけでした。彼は一緒に勉強会をしている仲間で、プライベートでも仲が良いんです。その髙橋さんと「パラリンピックを成功させるためにはどうするか」という話になり、「じゃあ私が企業人への啓蒙活動を通して国内のサポーターを増やす活動をします」と手を挙げたのがきっかけです。

 

二宮清純: 日本パラスポーツ推進機構が担う役割は?

砂野: 地域のコーディネーター役を私たちができればと考えています。当機構設立前、過去のオリンピック・パラリンピックを取材した新聞社の方とお話する機会がありました。その方に「ロンドンのパラリンピックはどうだったんですか?」と聞くと、「地域が協力し合って、大会を盛り上げていました。日本には普及に努め、パラリンピックの気運を高めるための地域のコーディネーターがいない」と。そのコーディネーター役を当機構が担おうと思ったんです。

 

二宮: 地域と人とパラスポーツを繋ぐハブ役を担うと?

砂野: そうですね。以前から髙橋さんに、障がいのある人のスポーツ参加のきっかけづくりを支援する指導員資格「初級障がい者スポーツ指導員」の取得者がなかなか増えないという話を聞いていました。やはりサポートする人がいないと、障がいのある人が体を動かす機会は創出しにくい。そういった現状を打破するため、パラスポーツ推進イベントに協力したり、障がいの有無に関わらず参加できるユニバーサルボッチャカップを日本ユニバーサルボッチャ連盟と共催しました。少しでもパラスポーツに興味を持ってもらい、それが指導員資格取得にも繋がればという思いがあります。

 

二宮: 地域に向けては、各都道府県の障がい者スポーツ協会との連携も重要になりますね。

砂野: もちろんです。各都道府県に障がい者スポーツ協会はありますが、当機構の活動が普及面で、少しでもお役に立てればと思っています。

 

 健康促進と自立支援の場

 

二宮: それにしても日本パラスポーツ推進機構とはシンプルな団体名ですね。

砂野: 実は、この名称に決めた5年前に、「パラスポーツとつけていいのか」という議論が関係者の中でありました。当時はそう危惧してしまうくらい「パラスポーツ」という言葉がまだ浸透していなかった。だからこそ団体名にして、世の中に広く打ち出していこうと思ったんです。

 

伊藤: 今回は東京駅八重洲口にあるグランルーフ2階に開設された「ウェルネスステーション東京2021」にお邪魔しています。「健康」と「障がい」をテーマに、イベントなどを開催しているそうですね。

砂野: はい。当機構の活動に社会的意義があると理解していただいている東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)に、4年前からJR上野駅や秋葉原駅での農福連携マルシェの開催や、複合スポーツ施設「スポル品川大井町」での「パラスポーツ体験💛農福連携マルシェ」開催などで協力をしていただきました。今回はJR東日本・JR東日本クロスステーションの協力をはじめ経済同友会の後援や、企業の皆様の協力も得て、ここ東京駅において5月12日から東京パラリンピックが閉幕する9月5日まで、「健康」と「障がい」を考えるスペースを設置できることになりました。ここにはパラスポーツ競技、選手、サポーターの活動を紹介するコーナーがあり、企業や自治体における障がいのある人の自立支援や社会貢献活動、共生社会づくりに向けた取り組みを紹介しています。

 

二宮: 体験型のコーナーがいくつかありますね。

砂野: ボッチャの体験コーナーは非常に好評で、親子連れやカップルなど様々な方たちに楽しんでいただいています。訪れた企業の方も「ウチの会社でもボッチャをやってみようかな」と興味を持っていただいています。また、血管年齢やストレスチェックなどができる5種類の最新の健康測定機器も設置しています。他にもパラスポーツの魅力が少しでも伝わればと、競技用車いすレーサーを展示しています。全面ガラス張りで、外から中の様子が見えるため、この車いすレーサーが気になって入場される方もいるんです。

 

伊藤: 体験コーナー、展示物の他には農産物や加工品を販売しているスペースもありますね。

砂野: はい。障がいのある人の自立・就労支援のため、全国の障がい者就労支援施設の生産活動を応援しています。農林水産業に携わる障がいのある人が増えていますが、そうした施設と連携して商品開発や販路拡大に取り組んでいます。売っているのは、そこで作られたものです。無農薬のお米など丁寧に作られた商品が多く、おかげさまで、リピーターの方も増えてきています。

 

二宮: この「ウェルネスステーション東京2021」が成功すれば、都内での設置はもちろん全国展開にも繋がりますね。

砂野: そうなればいいと思っています。企業や自治体との繋がりを発展させて、機構において、パラスポーツの推進と障がいのある人の自立支援を継続的にできる仕組みをつくっていきたい。「ウェルネスステーション東京2021」での活動が、当機構が目指す持続可能な共生社会実現のきっかけなればと思っています。

 

(後編につづく)

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砂野吉貞(すなの・よしさだ)プロフィール>

一般社団法人日本パラスポーツ推進機構代表理事。愛媛県出身。上智大学卒業後、1981年日本航空株式会社入社した。経営企画室で企画・渉外を担当。2010年から米国半導体メーカーのグローバルHRとして日本・韓国・台湾の3工場の生産性向上をリード。2016年に独立し、コンサルティング事業を手掛ける株式会社スナジャパンを設立。AIカンパニーの顧問として DX化を推進。障がい者雇用の推進にも取り組む。同年設立した一般社団法人日本パラスポーツ推進機構では、パラスポーツイベントやセミナーを通して、障がい者の健康増進のためのサポーターを増やす活動と、障がい者就労支援施設と連携した自立支援活動に取り組んでいる。2020年12月にはプレミア・ウェルネスサイエンス株式会社社外取締役に就任。ウェルネス事業にも力を入れている。2021年5月から、東京駅において健康と障がいを考えるスペース「ウェルネスステーション東京2021」を開設。「障がい者の働き方改革」推進に向けた取り組みを強化し、支援の輪を広げるため、若者からシニア層まで全世代に向けた情報発信をしている。

 

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