北信越BCリーグの初年度が終了しました。残念ながら富山サンダーバーズは、あと一歩のところでチャンピオンの座につくことはできませんでした。辛いことも楽しいこともあったシーズンでした。しかし、厳しい環境の中、選手たちは本当によくやってくれました。今はその思いでいっぱいです。
 予想以上に難しかったのは選手のコンディションづくりです。BCリーグでは日帰りでのバス移動が基本です。そのため、ナイターの試合が終わった後、5時間以上バスに揺られ、睡眠不足のまま翌日のデーゲームに臨むということもあります。しかもシーズン通して毎週3〜4試合をこなすことなど、これまで経験がない選手ばかりですから、疲労がたまらないはずはありません。

 疲労はケガにつながりやすい。ギリギリの人数でやり繰りしているチーム事情を考えれば、できる限り故障者を出さないようにしなければなりません。そのため、選手たちには「オフをうまく使ってメリハリをつけるようにしなさい」と言ってきました。

 とはいえ、オフは週に1度だけ。私がいくら「心身ともに休養にあて、リフレッシュしなさい」と言ったところで、一人暮らしをしている選手たちにはやることが山積みです。洗濯や掃除、食事の買い出しなど、普段できないことをするだけであっという間に一日が終わってしまう。選手たちはなかなか休むことができなかったと思います。

 それでも彼らはプロ選手です。野球でお金を稼いでいるわけですから、甘えたことは言っていられません。入場料を払って観に来ていただいたお客さんの前で、常に最高のプレーを見せるのがプロです。そのことを私は選手たちに常に言い続けました。最初はまずいプレーも多々ありましたが、徐々にプロ意識が高まったのでしょう。いいプレーが生まれるようになり、最後まで首位争いを演じることができました。

 不可欠な守備力強化

 結果的には、優勝することはできませんでした。長いシーズンを勝ち抜くには、“水物のバット”よりも“堅実な守り”が重要です。NPBの歴代優勝チームを見ても、いかに守りが大事かがわかります。初代チャンピオンに輝いた石川ミリオンスターズも投手を中心とした守りのチームでした。

 しかし、そうした優勝のセオリーにあえて背を向け、富山は“打”で勝負しました。その理由はチームの特徴にありました。9人中7人が左打者という打線は右投手が多い他球団にとっては脅威です。加えて長距離砲も多く揃い、まさに重量打線でした。指揮官としてこの特徴を生かす手はないと考えたのです。

 期待した通り、開幕から打線は好調でした。どこからでも得点できるので、投手が少々打たれても打線でカバーすることができました。72試合を終え、チーム打率は4球団で唯一3割台をキープ。さらに515得点、52本塁打と驚異的な数字を残すことができました。

 個人では打率(4割1分2厘)、本塁打(14本)で2冠に輝いた野原祐也(国士舘大出身)や打点王(79打点)の井野口祐介(平成国際大出身)のほか、草島諭(富山国際大出身)、宮地克彦(現プレーイングコーチ)、塚本雄一郎(三晶技研出身)と3割打者を数多く出しました。

 しかし、結果的には石川に逆転され、僅差の差で優勝を逃しました。石川の打率は2割6分6厘。これは3位の信濃グランセローズよりも低い数字です。さらにホームランは4球団一少ない12本でした。石川がいかに鉄壁の守備で勝ち抜いてきたかが一目瞭然でしょう。富山も打線が持ち味という特徴は残しつつも、守備力の強化にも着手していかなければならないと考えています。

 加えて、クリーンアップの一角を担った井野口が、出身地に設立された群馬ダイヤモンドペガサスに移籍することが決定しました。彼がいなくなった穴は非常に大きく、来季は今季ほどの数字は見込めないかもしれません。そのことを考えても、やはり投手と守備のレベル向上は不可欠です。

 新戦力に期待

 そのため、21日に行なわれたドラフト会議ではバッテリーと内野手の補強を一番に指名しました。今季はチームに不在だった左腕2人を含め、投手を3人、捕手と内野手を2人ずつ指名し、他に外野手1人の合計8人。その中には富山県出身者3人(投手2人、内野手1人)が含まれています。すぐにレギュラーは難しくても、一日も早く地元ファンの期待に応えられるようなプレーを見せることができるようになってもらいたいと願っています。

 そのほか、新戦力として新潟アルビレックスBCから宮本晋伍(岐阜経済大出身)を獲得しました。彼はコントロールに難があり、今季の成績は25試合に登板して1勝7敗、防御率7.90。新潟からは戦力外通告を受けました。しかし、潜在能力は高いものを持っている投手です。特にスピードが速く、11日に行なわれた千葉ロッテのトライアウトでは、参加した投手の中で最も速い球速を記録したほどです。

 身長181センチ、体重80キロと体格もよく、年齢も23歳とまだ若い。コントロールさえ身に付けば、伸びしろは十分にあります。性格も礼儀正しい真面目な選手ですから、練習に練習を重ね、来季にはきっと戦力の一員となってくれることでしょう。

 前述したように、今季は残念ながら「北信越BCリーグ」としては初代チャンピオンの座につくことはできませんでした。しかし、来季は群馬と福井ミラクルエレファンツが参入し、6球団での戦いとなります。そういう意味では新生「BCリーグ」の初年度です。チーム一丸となって、来季こそは富山にチャンピオンフラッグを持ち帰りたいと思います。


鈴木康友(すずき・やすとも)プロフィール>:富山サンダーバーズ監督
1959年7月6日、奈良県出身。天理高から77年にドラフト5位で巨人に指名され、翌年入団。その後、西武、中日に移籍し、90年シーズン途中に再び西武へ。主に守備固めとして活躍し、92年に引退。その後、西武、巨人、オリックスのコーチに就任。05年より茨城ゴールデンゴールズでコーチを務め、07年より富山サンダーバーズ初代監督に就任した。


★携帯サイト「二宮清純.com」では、5月より独立リーグのコラムコーナーが新しく誕生しました。題して「四国&北信越独立リーグ紀行」。四国アイランドリーグ、北信越BCリーグの監督、コーチ、選手が毎週火曜日に交代で登場し、それぞれの今をレポートします。
 今回は富山・鈴木康友監督のコラムです。「富山の野球熱、上昇中!」。ぜひ携帯サイトもあわせてお楽しみください。
◎バックナンバーはこちらから