28日、東京オリンピック体操競技男子個人総合決勝が東京・有明体操競技場で行われた。予選1位の橋本大輝(順天堂大)が88.465点で金メダルを獲得した。日本勢としては2012年ロンドン、16年リオデジャネイロ大会を連覇した内村航平(ジョイカル)に続き、同種目3連覇。橋本は団体に続き今大会2個目のメダル。銀メダルは88.065点でシャオ・ルオテン(中国)が、銅メダルは88.031点でニキータ・ナゴルニー(ROC=ロシアオリンピック委員会)が手にした。予選7位の北園丈琉(徳州会)は86.698点で5位に入賞した。

 

 体操NIPPONの若きエースが、個人総合の王座を掴み取った。団体でも抜群の安定感を見せた橋本が個人でも誰よりも大きな輝きを放った。

 

 予選トップ通過の橋本は、個人総合の世界王者がズラリと並ぶ第1班に入った。09年の世界選手権ロンドン大会から16年リオオリンピックまで内村が8連覇の偉業を成し遂げていたが、17年はシャオ、18年はアルトゥール・ダラロヤン(ROC)、19年はナゴルニーと中国、ロシアの手に渡っていた。2連覇中の内村は今回この種目に出場していないため、誰が勝ってもオリンピック初制覇となる。

 

 床運動(ゆか)、あん馬、つり輪、跳馬、平行棒、鉄棒と続くローテーション。橋本は第1ローテーションのゆかで全体2位の14.700点、第2ローテーションのあん馬で全体1位の15.166点と高得点をマークし、序盤からトップに立った。第3ローテーションのつり輪は13.533点。跳馬は着地でラインオーバーし、マイナス0.1点を科されて14.700点。表彰台圏外の4位に落ちた。

 

 それでも終盤2種目は得意とする平行棒と鉄棒だ。体線の美しい演技で次々と技を決めていく。F難度のひねりを加えたフィニッシュは着地をビタッと決めた。団体戦の鉄棒でも見せた完璧な着地。得点こそこの種目全体4位の15.300点だったが、出来栄え点を示すEスコアは、トップの9.100点がついた。橋本はここで暫定4位に浮上した。トップのシャオとは0.467点差。次に繋がるいい演技だった。

 

 逆転の金メダルへ、大トリで迎える鉄棒にすべてを懸ける。先に演技を終えたシャオは14.066点を加え、88.065点でトップに立つ。橋本が追い抜くには14.533点以上が必要だ。「メダルの色は関係なく、“記憶に残るいい演技をしよう”と思った」と橋本。高難度の離れ技を次々に決めた。フィニッシュは伸身新月面宙返り下り。着地は前方に一歩動いたが、申し分のない出来だ。優勝を確信した橋本も両手で大きくガッツポーズを見せた。採点結果は14.933点。シャオとナゴルニーを差し切った。

 

 19歳で世界一のオールラウンダーに君臨した。オリンピックの個人総合最年少優勝記録。内村の後継者として、日本の同種目3連覇を繋いだ。体操NIPPONにオリンピック100個目のメダルをもたらした。橋本に感激の涙はない。

「ここで涙を流してしまうと、今の状態に満足してしまっている状態だと思った。チャンピオンは涙を流さずに常に前だけ見ているという気持ちを持っていきたい」

 

 新王者は「3カ月後に世界選手権(北九州大会)がある。もっと高みを目指していきたい」と既に先を見据えている。“キング”と呼ばれる内村が纏っていた絶対王者の風格はまだない。ただそれは今後の結果で身につけていくものだろう。橋本はパリ、ロサンゼルスのオリンピック3連覇を狙う。前人未到の偉業を成し遂げるため、19歳が絶対王者への道をスタートさせた。

 

(文/杉浦泰介)