1年後に延期となった東京オリンピック出場を目指すダイバーがいる。近畿大学2年で、高知SCに所属する宮本葉月だ。彼女はシンクロナイズド3m飛板飛び込みで榎本遼香(筑波大大学院2年/栃木DC)とコンビを組み、来年2月に開催予定のW杯東京大会での切符獲りを狙う。

 

(2020年8月の原稿を再掲載しています)

 

 飛び込みは、飛び込み台から空中に飛び出し、着水までの技術、美しさを競う競技である。飛び込みから着水までは、わずか2秒弱と言われており、その短い時間内にダイバーは様々な技を繰り出し、評価点を競う。まさに“一瞬の美”を追求する採点競技だ。

 

 オリンピックにおける飛び込み競技は1904年セントルイス大会から正式種目となり、女子はその8年後のストックホルム大会からスタートした。2人1組で行うシンクロナイズドダイビング(3m飛板飛び込み、10m高飛び込み)は、2000年シドニー大会から新たに採用された。現在は男女各4種目(3m飛板飛び込み、10m高飛び込み、シンクロナイズド3m飛板飛び込み、シンクロナイズド10m高飛び込み)が行われている。

 

 飛び板の弾力性を利用し、跳ね上がって飛び込むのが飛板飛び込みで、弾力のない飛び込み台から飛び込むのが高飛び込みである。個人種目は1m飛板飛び込み、3m飛板飛び込み、高飛び込みの3種目。シンクロナイズドダイビングは2種目(3m飛板飛び込み、10m高飛び込み)だ。個人種目では演技の美しさや入水時の水しぶきの少なさなどを見るが、シンクロナイズドダイビングは、それらに加えてどれだけ2人の演技がシンクロしているかどうかもポイントとなる。宮本は個人種目との違いを「難しい分、達成感は大きい」と語る。

 

「憧れの人」とのペア

 

 18年からペアを組む榎本とは19年の世界選手権に出場した。4学年上の彼女は宮本にとって「憧れの人」だ。

「私が中学2年の時、遼香ちゃんはインターハイ(全国高校総合体育大会)の飛板飛び込みと高飛び込みの両方で優勝した。すごくカッコ良いし、キレイで憧れていました。飛び込み選手としても人としても芯がある。ダイナミックで、めちゃくちゃキレイな演技。とても尊敬しています。まさかそんな人と組めると思っていなかったから、ペアに決まった時はすごくうれしかった記憶があります」

 身長は榎本が165cm、宮本が152cmである。「同じような演技をするにはジャンプ力でカバーするしかない」と宮本。練習拠点は榎本が栃木で、宮本が大阪と常に一緒ではない。日々、コミュニケーションを取り、コンビネーションを深めている。

 

「ここだけは誰よりも優れているという部分はないかもしれない」と言う宮本の武器は安定感だ。

「失敗しても最小限にまとめることができる力はあると思っています。調子が悪い時でも大崩れはしません」

 

 それは日々の練習量が培ったものと言えよう。オフの日を除けば、1日50本以上飛ぶ。宮本によれば、他の選手と比べると約2倍のペースだという。

「誰よりも本数を飛んでいる自信はあります。周りの人にも『飛び過ぎ』と言われることもありました。特に大学生ぐらいになると、本数を飛ばずに調整する人が多いのですが、私は基本的に何本も飛ぶ。もちろん失敗することもありますが、そんな時でもどうやったら真っすぐ入れるかを考えて練習しています。だから試合でも慌てず対応できるのかなと思います」

 

 宮本は幼少期から木登りなど高いところで遊ぶのが好きだった。天真爛漫な少女は小学3年で、飛び込み競技に出合う――。

 

(第2回につづく)

 

宮本葉月(みやもと・はづき)プロフィール>

2000年12月25日、高知県高知市出身。小学3年で飛び込み競技を始める。土佐女子中・高を経て、近畿大学に進学。全国中学校体育大会、日本高等学校選手権大会、日本学生選手権大会と各カテゴリーの飛板飛び込みを制した。高校2年時には1m板飛び込みと、シンクロナイズド3m板飛び込みで日本選手権を制覇。1m板飛び込みは現在まで3連覇中。18年アジア競技大会(インドネシア・ジャカルタ)、19年世界選手権大会(韓国・光州)に日本代表として出場した。20年2月、国際大会派遣選手大会のシンクロナイズドダイビング3m板飛び込みで1位。東京オリンピックの選考会となるW杯出場を決めた。身長152cm。

 

(文/杉浦泰介、写真/近畿大学提供)

 

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