KTR(FULLCAST RAISERZ/愛媛県宇和島市出身)最終回「唯一無二の存在に」

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 後藤慶太郎が、現在のKTRというダンサーネームを名乗るようになったのは、約5年間在籍したTwiggz Famを離れてからだ。海外でも呼びやすいように、慶太郎の頭文字を取ってつけた。「自分が心から大事にしている親からつけてもらった名前をレペゼン(代表)したいとの思いでつけました」。このKTRという名前で世界へと飛び出していった。

 

 Twiggz Famを離れたことは、KTRのターニングポイントと言っていいだろう。ただ在籍した約5年間で活躍の場を広げていた中でのことだ。なぜ離れる必要があったのか――。

「その頃、チームの中でも今後どうしていきたいかを話し合った時期だったんです。KRUMPを広めていくためにどうしたいのか、そして広まってからどうしたいのか、と。それを突き詰めていく時期でした。その時に自分は“やりたいことが芸能界、エンターテインメントの世界にあるんじゃないか”という考えに辿り着きました」

 

 Famからの離脱は、彼を自身の右腕として手塩にかけて育ててきたTwiggz“JUN”こと佐藤順一郎からすれば、承服できるものではなかった。

「自分の代わりに彼がTwiggz Famを引っ張ることも考えていましたから」

 当然、説得を試みた。

 

 世話になったJUNからの説得に、KTRの気持ちが揺らがなかったと言えば嘘になる。

「でも考えた上の結果。人生は一度きり。自分は一度、こうと決めたら動かずにはいられない性格。チャレンジしてみないと、収まらないし、止まらない」

 

 JUNも彼が折れない性格なのは分かっていた。KTRの決断に他のメンバーも後押しした。JUNによれば、Soulja Twiggzこと土方修斗がこう言ったという。

「今のFULLCAST RAISERZのリーダー、Soulja Twiggzたちが『オレらがいるじゃないですか。オレらと一緒に頑張りましょう』と言ってくれたんです。それで自分も(引き止めに)固執する必要ないんじゃないかと思うようになった。最初は悩みましたが、本人の人生なので受け入れました」

 

 KTRはTwiggz Famを離れた後、自らの腕を試すべく世界大会に乗り込んだ。2015年にKRUMPの世界大会GERMANY 1 on 1 KRUMP BATTLE. CALL OF BATTLEで準優勝。同年にはKRUMP BATTLE PARIS ILLESTでベスト24に入った。ドイツ、フランスで結果を残し、韓国のダンス&ボーカルユニット『東方神起』の振付を任されることもあった。

「いろいろな人の話を聞いた時期でしたね。アメリカに行くことも考えましたが、『アーティストになってみないか』とオファーをいただきました」

 

 エイベックスなどの芸能事務所が開催したオーディションに参加。ダンス部門で頂点に立ち、ダンス&ボーカルユニット『龍雅-Ryoga-』としてメジャーデビューを果たした。龍雅ではKRUMP以外のダンスも踊った。

「他のダンスもやりましたが、自分のソロではKRUMPを踊っていました。自分の中でも“そこにいったとてKRUMPを打ち出していかないと”、と思っていた。メジャーデビューしたとしてもアンダーグラウンドで『実力でナンバーワン』と言われるダンスをしたかった」

 求めたのは名も実も。大会に出れば、圧倒的な実力を見せつけたかった。「“やっぱりアイツに出られたら負けるだろう”という存在でいたかったですね」

 

 まさかのオファー

 

 16年4月にメジャーデビューを果たし、シングル4枚、アルバム1枚を世に出した。17年いっぱいで活動休止となったが、龍雅での得たものもたくさんあった。

「人間的にたくさん成長できましたね。いろいろな方と出会い、“こういう考え方もあるんだ”と知ることができた。Twiggz Famにいた時はKRUMPを知っている人で、KRUMPが大好きな人だけで集まった。龍雅の活動をしていく中、KRUMPを知らない人もいましたし、様々な分野の考え方や価値観に出会えた」

 

 モデル、振付師、アーティストとしての経験がダンサーとしての引き出しを増やしていった。

「人に見られる機会の多い仕事が増えました。ファッションショーで踊ったり、ただKRUMPの世界でダンスをやっているだけではない。それまでには味わったことのない、いろいろな経験ができたおかげで、感受性が豊かになったと思います。ただ根本にはKRUMPERということに変わりはありませんでした」

 活躍するステージは変わっても、KRUMPへの想いは揺るがなかった。

 

 KRUMPチーム『BlackIIImurai(ブラックサムライ)』としても活動し、軸足はKRUMPに置きながら日々を過ごしていたKTRにまさかのオファーが届いた。19年12月に開催されるKRUMPの世界一決定戦「KING OF BUCK 10th Anniversary World Cup 2019』への出場だ。何が“まさか”なのかというと、KOBこと「KING OF BUCK」とは、KTRが離れたTwiggz Famが手掛ける大会だからだ。10周年を記念する大会に過去の優勝者としてお呼びがかかったのである。

 

 この大会はTwiggz Fam離脱後、疎遠になっていたKTRとJUNを繋げるきっかけとなった。「JUNさん、KRUMPシーンへの恩返になると思い、引き受けさせていただきました」。これを機に連絡とり合う頻度は上がった。「喧嘩別れぐらいの勢いで」(KTR)チームを離れたが、また2人は交流を深めていったのである。

 

 2人が“再会”を果たした後、ダンス界に大きなうねりが生まれていた。日本発のプロリーグが誕生する動きだ。のちのD.LEAGUEである。チームディレクターとして関わることが決まっていたJUNは、KTRに声を掛けた。

「輝ける場所が増える。企業がスポンサーにつき、プロ野球やバスケットボールのB.LEAGUEのようなリーグがダンスにもできる。“マジですか!? やばいですね”というシンプルな驚きでした」(KTR)

 

 再び自分を誘ってくれたことに「うれしかった」と語るKTRだが、迷いがなかったわけではない。

「まわりの目が気になったこともありました。まわりの目というのは、JUNさんやみんなが大事にしてきたTwiggz Fam。オレがチームに入ることによってかき乱してしまう不安はありました」

 不安を払拭するため、Twiggz Famのメンバーとは、イベントにゲスト参加する際に「思うことがあるなら、言ってくれ」と直接話をした。

 

「人として成長したい」

 

 メンバーからは反発の声は上がらなかったという。KTRは晴れてTwiggz Famが中心となるRAISERZに加入した。

「今考えると、RAISERZに関してはTwiggz Fam主体ではありますが、Twiggz Famではない。そういう心配をすること自体おこがましいことだったのかもしれません。自分にはTwiggz Famにいた5年間もあるし、1人で修業した5年間もある。人間として強くなったKTRがRAISERZに入ることによって、KRUMP、Twiggz Famのみんな、JUNさん、今までお世話になった人たちに恩返しができるのかなと思いました」

 

 JUNはKTRに信頼を寄せ、サブリーダーを任せた。その決断は間違いではなかったと自負している。

「リーダーのSoulja Twiggzを支えてくれている。彼は面倒くさい仕事を率先してやってくれますし、チームのために自分の時間も削ってくれる。その姿勢を見せているので、みんなからも信頼されているのだと思います」

 人間的に成長し、チームの手本になっているのだろう。

 

 21年1月に開幕したD.LEAGUEは佳境を迎えている。RAISERZは12ラウンドの合計得点でREGULAR SEASON WINNERに輝いた。まだシーズンは終わりではない。上位4チームによるチャンピオンシップが7月1日に控えている。「チャンピオンシップ制覇を目標に今シーズンを戦ってきました。シーズンウィナーになったことで、“やっとここまで来たぞ”という気持ちもありますね」とKTR。準決勝でKOSÉ 8ROCKS(コーセーエイトロックス)と対戦する。KTRもチームと共にD.LEAGUE初代王者を目指し、日々、研鑽を積んでいるところだ。

 

 初代王者になれるのは1チームのみ。「唯一無二」の存在となるのはKTR個人としてもキーワードにしている。

「少しでも人にパワーを与えられる存在になりたい。あまり細かいことは考えていないんですが、ダンサーとして、KRUMPERとして唯一無二でありたい」

 

 彼のスター性を認めるJUNはKTRを「ラップもできるし、モデルもこなす。才能に溢れている」と絶賛する。もちろん本業のダンサー、KRUMPERとしての評価も高い。

「技術的にも優れていますが、彼の踊る姿のシルエットがカッコイイ。身長が高く、細いけど痩せているわけではなく、しっかりと筋肉が詰まった動きをする。性格は一本筋が通っていて真面目。それが踊りにも出ていますね」

 

 高校3年でダンスを始め、“うまくなりたい”という思いで駆け抜けてきた。今でもそれがKTRを突き動かしているのか。本人に訊ねると、「“うまくなりたい”は当たり前」と答え、こう続けた。

「人として、もっと成長したい。それがダンスに繋がると思っています。スキルだけじゃなく見ている人に伝わる部分。人間味をもっと出せるようになりたいです」

 唯一無二へ――。日々、成長のステップを刻む。

 

(おわり)

>>第1回はこちら

>>第2回はこちら

>>第3回はこちら

 

KTR(ケーティーアール)プロフィール>

1990年11月18日、愛媛県宇和島市生まれ。本名は後藤慶太郎。高校3年時からダンスを始める。2013年には日本最高峰のダンスバトルイベント「DANCE@LIVE JAPAN FINAL HIPHOP SIDE」で準優勝。15年、ドイツで行われたKRUMP世界大会「GERMANY 1 on 1 KRUMP BATTLE. CALL OF BATTLE」で準優勝した。同年にはパリでの「KRUMP BATTLE PARIS ILLEST」でベスト24に入るなど、繊細でクリアな動きとキレのあるパフォーマンスを武器に、様々なコンテストやバトルで好成績を残してきた。日本KRUMP界を代表するダンサーで、国内に留まらず海外からの評価も高い。現在は日本発のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」のFULLCAST RAISERZに所属し、サブリーダーを務める。韓国の人気グループ「東方神起」のLIVE振付を任されるなど、アーティストの振付も行う。モデルとしても活躍するなどマルチに活動している。身長179cm。

 

(文/杉浦泰介、写真/©D.LEAGUE 20-21)

 

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