ラモスがピッチに崩れ落ち、ゴン(中山雅史)がベンチで顔を覆う。1993年10月28日、深夜(日本時間)。列島を悲鳴と嗚咽が包んだ。

 アメリカW杯アジア地区最終予選、対イラク戦。2対1と日本、1点のリード。ラストワンプレー。フセインシハーブのショートコーナーをフセインカディムがニアポスト付近へ絶妙のセンタリング、オムラムのヘディングシュートがゆるやかな弧を描いてゴール左隅に突き刺さった。

 搭乗手続まですませていたアメリカ行きのチケットがスルリと手から滑り落ちた瞬間だった。世にいう“ドーハの悲劇”である。

「今でもわからない。ワタシ、いつかあのレフェリーに訊いてみたいの。“あのアカボウは何だったの?”って」

 ラモス瑠偉が私にこう語ったのは、今から7、8年前のことだ。コーナーキックの前、ラモスはイラクの選手に気付かれないよう、イタリア人レフェリーにわざわざポルトガル語でこう訊ねていたのだ。

「アカボウ(終わり)?」
「スィ(イエス)」

 ところがショートコーナーのあともゲームは続き、日本代表は奈落の底へと突き落とされるのである。

「あのゲーム、振り返れば振り返るほどわからないことばかりなのよ」

 ドーハのミステリー。ラモスはそう言ってまた頭を抱えた。


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