(写真:PRIDE時代、圧倒的な強さを誇ったヒョードル)

 エメリヤーエンコ・ヒョードル(ロシア)の次戦が決定した。

 10月23日(現地時間)、モスクワのVTBアリーナで開催されるベラトール・ロシア大会のメインイベントでティモシー・ジョンソン(米国)と対戦する。

 

 ヒョードルにとっては、実に1年10カ月ぶりの試合。2019年12月29日、さいたまスーパーアリーナ『BELLATOR JAPAN』でのクイントン・“ランペイジ”・ジャクソン(米国)戦以来の闘いとなる。母国でのファイトとしては、16年6月のファビオ・マナドナド(ブラジル)戦以来、実に5年4カ月ぶりだ。

 

 一昨年に、ヒョードルは、3試合を闘って現役を引退すると表明。その1戦目が19年12月のジャクソン戦。翌20年に残りの2試合が行われるはずだったが、新型コロナウィルスのパンデミックにより計画は大きく狂う。

 そして今回、引退ロードの2戦目が決まった形だ。

 

 ヒョードルの対戦相手候補には、ジョンソン以外にも何人かの著名ファイターの名があがっていた。

 ジュニオール・ドス・サントス(ブラジル/元UFCヘビー級王者)

 ジョシュ・バーネット(米国/同)

 ファブリシオ・ベウドゥム(ブラジル/同)

 アリスター・オーフレイム(オランダ/元DREAMヘビー級暫定王者)……etc

 いずれもUFCで活躍し、一時代を築いたトップファイターたちだ。

 

 だが、ヒョードルは彼らではなくジョンソンを選んだ。

 これに対して、ドス・サントスが噛みついた。

「私はヒョードルを尊敬している。だが、今回の対戦相手のチョイスは理解できない。世界のMMA(総合格闘技)ファンが望んでいることとは程遠い。逃げるなよ!」

 ドス・サントスは、「ヒョードルは自分と闘うことを避けて楽に勝とうとしている」と言いたいのだろう。

 

「レジェンドを倒しにいく」

 

 果たして、そうだろうか?

 ドス・サントス、ジョシュ、アリスター、ファブリシオの4人は、輝かしい経歴を持つビッグネームだ。しかし、いずれも全盛期を過ぎている。現時点での実力を比較すれば、BELLATORヘビー級2位のジョンソンの方が上位ではないか。

 今年6月25日、『Bellator261』においてジョンソンは、ワレンティン・モルダフスキー(ロシア)を相手に同団体のヘビー級暫定王座決定戦に挑んだ。結果はフルラウンド(5ラウンド)闘った末の判定負け。

 

 モルダフスキーは、ヒョードルの弟子である。そのため、師であるヒョードルは、この試合のセコンドについていた。

 普通に考えれば、自らの弟子に負けた相手と闘う必要はないだろう。

 それを敢えて、対戦相手に指名した。

 ジョンソンの実力を認めてのことだと私は思う。

 

 一昨年、さいたまスーパーアリーナでのジャクソン戦は凡戦に終わった。ジャクソンにファイティング・スピリットがまったく感じられず、ヒョードルが完勝。

 あの時、彼は思ったのではないか。

(本気で自分を倒しに来る相手でないと、スリリングな試合はできない。ネームバリューがある選手ではなく、自分にとってリスキーな相手を選びたい)と。

 

 対戦相手に指名されたジョンソンは言った。

「私を選んだ理由は、いずれかだろう。簡単に倒せると思ったか、『白熱した試合ができる相手だ』と認めてくれたのか。後者だと信じる。そして、レジェンドを倒しにいくよ」

 

 私も、後者だと信じる。

 ヒョードル最終章を、しかと見届けたい。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『伝説のオリンピックランナー“いだてん”金栗四三』『柔道の父、体育の父 嘉納治五郎』(いずれも汐文社)ほか多数。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


◎バックナンバーはこちらから