今回の東京五輪から新たに競技に加わった空手で、女子形日本代表の清水希容が力強さとスピードを兼ねた演武を披露し、見事銀メダルを獲得した。五輪メダリストが思う競技の魅力とは――。

 

<この原稿は「第三文明」2020年6月号に掲載されたものです>

 

二宮清純: 今回の東京五輪から、空手が正式競技として採用されました。採用が決まったときの気持ちは?

清水希容: リオデジャネイロ五輪のとき(16年8月)に採用が決まったのですが、実は当時、2カ月後に世界選手権を控えていて、そのことで頭がいっぱいだったんです(苦笑)。そこで優勝して、ようやく五輪採用の喜びをかみしめました。

 

二宮: 清水さんは女子形の日本代表ですが、競技について詳しく知らない人も多いと思うので、少し解説をお願いできますか。

清水: 空手には、大別すると伝統空手と実践空手(フルコンタクト空手など)があり、東京五輪で採用されたのは伝統空手です。さらに伝統空手には、実際に選手同士で戦う「組手」と、仮想の相手に対する攻撃技と防御技を一連の流れで演武する「形」があります。そして、伝統空手にはいくつか流派があって、同じ名前の形でも流派によって違いがあります。

 

二宮 五輪で演武する形は、すでに決められているのですか。

清水: いえ、世界空手連盟(WKF)が認定した102種類の形から、自分で選んで演武します。1回戦から決勝まで異なる形で演武する必要があり、どの段階でどの形を演武するかが勝負のカギになります。

 

二宮 形の試合は、どのように行われるのでしょう?

清水: まず出場選手10人が、5人ずつ2組に分かれて予選を行います。1人ずつ2回の演武を行い、得点上位3人が準決勝に進出。準決勝は、予選と同組の3人で争われ、各選手が1回演武します。そして、各組の最上位得点者が決勝に進出し、勝者に金メダルが与えられます。なお、採点は7人の審判が5~10点の間で0.2点刻みで行い、得点の上位2人と下位2人を除いた審判3人の点数が採用されます。

 

二宮: 審判は、具体的にどういった点を見ているのでしょうか。

清水: 立ち方や技の正確性、タイミングなどを見るテクニカル・パフォーマンス(技術点)と、力強さやスピードなどを見るアスレチック・パフォーマンス(競技点)で評価されます。四方八方から攻撃されている想定で演武するので、見ている人には、そのダイナミックな動きを楽しんでほしいと思います。

 

二宮 確かに、清水さんをはじめトップ選手の演武を見ていると、まるでそこに大勢の相手がいるように見えます。その仮想の相手ですが、何か具体的な設定をするのでしょうか。たとえば、身長が1メートル70センチとか……。

清水: そこまで細かく決めることはありません。でも、練習では先生と向き合って実際に技を受けたり、突いたり蹴ったりする練習もしています。形は単なる演技ではなく、身を守るために、技一つ一つに意味があって成立しているので、その技や形の意味を理解して演武しているかも大事なポイントです。

 

二宮: 清水さんの「チャタンヤラ・クーシャンクー(北谷屋良公相君)」という形を見ていると、そのダイナミックさはもちろん、技のスピードに驚きます。どんなふうに腕が動いているのか、肉眼でははっきりわかりません。

清水: チャタンヤラ・クーシャンクーは、私の流派である糸東流の代表的な形の一つで、俊敏性のある速い動きと手数の多さが特徴です。私自身、演武するうえでダイナミックさやスピード感を大事にしていて、それが最大限発揮できるという意味でも、最も得意とする形です。

 

二宮: まだ見たことがないという人は、ぜひインターネットの動画サイトなどで一度見てほしいですね。ものすごくかっこよくて、美しい。それから、清水さんの演武を見ていてもう一つ気になったのが、目力の強さです。これは意識してやっているのですか。

清水: はい。闘志は目に宿ります。それに相手が近くにいるのか、それとも少し距離があるのか、視線で表現することもできます。こうした目の使い方を空手の世界では「目付」と言い、戦いを表現する大事な要素の一つです。

 

二宮 目付ですか……。確か、剣道の世界にも「遠山の目付」という言葉がありますね。

清水: 同じだと思います。目は相手の顔面を見るけれども、一点を凝視するのではなく遠い山を見るように、相手の体全体を視野に入れるような見方です。私自身は、自分の内面の奥から相手をしっかり見るようなイメージを持っています。自分と向き合いつつ、仮想の相手と戦う感じですね。

 

二宮: そうすると、集中力も大事ですね。試合では、観客の姿が気になったりしませんか。

清水 自分が集中しきれていないときは、気になってしまいますね。逆に集中しているときは、観客の皆さんが点に見えます。

 

二宮: 点々ですか!? すごい集中力ですね。ちなみに試合のときは、ほかの選手の演武も気になったりしますか。

清水: 自分が先攻ときは、終わってから見ることもありますが、後攻の場合は自分の演武に集中したいので一切見ません。それでも音で、相手の演武の出来はだいたいわかります。

 

二宮: 相手の動作音で調子がわかると?

清水: はい。「こういうふうに動いているな」とか、「今日はここに気をつけているな」とか、音でだいたいわかります。

 

二宮: それはすごい。確かに、形の試合会場はピンと張りつめた静けさのなかで、空手着がすれる音や気合の声がよく響きます。

清水: 空手着のシュシュッと擦れる音はいいのですが、パンパンとたたくような音はだめです。たとえば、突きを出すときに腕の軌道がおかしいと、空手着が体の変なところをたたいて音が出てしまいます。技に合っていない音は減点の対象になりますし、おかしな呼吸音も減点対象です。

 

二宮: 音といえば、形では気合いを入れるとき、あるいは演武の始めに形の名前を告げるときも、大きな声を出しますね。やはり、声は重要なのでしょうね。

清水: とても大切です。声の出方によって、技への入りが安定したり、逆に浮いてしまったりすることがあります。腹から声を出せばどっしりと構えられますが、喉から出すとどうしても技が浮いてしまいます。

 

二宮: 技の話が出たのでお聞きしたいのですが、技はダイナミックなほうが見栄えがしますね。たとえば、蹴りは高いほうがいいのでしょうか。

清水: 高ければいいというものではありません。体には、みぞおちや喉元や人中(唇上部の溝)など急所がいくつかあるので、そこに的確に入っているかどうかです。

 

二宮: そうすると、どのくらいの大きさの相手を想定して演武するかによって、蹴りの高さや突きの位置が変わってきますよね。

清水: そこは、基本的には自分の体型が基準になります。自分の体型にあった上段・中段・下段、そして急所でないと審判からは技が外れたとみなされて、減点になってしまいます。そういう意味では、自分の体形をしっかり理解し、それに見合った技や体の動かし方をすることが重要です。

 

二宮: ここまでいくつか減点となる行為を聞きましたが、反則にはどんなものがありますか。

清水: 事前に届け出たものと異なる形を演舞したとき、演武開始・終了時に礼をしなかったとき、演武中に帯がほどけて落ちたとき(緩んで下がった場合は減点)などですね。

 

二宮 なるほど。でも、あれだけ激しい動きをすれば当然、帯もほどけやすくなりますよね?

清水 そうなんです。だから、帯の結び目を水で濡らし、さらにきつく結んだりする選手もいます。

 

二宮 形には、3人1組で同じ演舞をする団体戦がありますね。そのなかには「分解」という演武(攻撃役と防御役に分かれて演武する)があって、スピード感あふれる攻防が多くの観客を魅了します。形ですから当然、実際に相手を突いたり、蹴ったりしてはいけないわけですよね?

清水: はい。実際に技が当たってけがをしたり、鼻血が出てしまったりした場合は反則になります。

 

二宮: 組手でも過度な接触は反則になりますから、その点は一緒なんですね。その組手ですが、体重による階級が設けられています。一方、形に階級はありませんが、体重の軽い・重いで何か違いはありますか。

清水: 体重の軽重は、技に影響します。体重が軽すぎると技も軽くなり、重すぎると動作が鈍くなります。

 

二宮 なるほど。そうした点を踏まえたうえで、ベストの体重を探るわけですね。ちなみに、清水さんのベスト体重は?

清水 57キロがベストです。一時期、絞って減量した時期もありましたが、どうしても技が軽くなってしまうので戻しました。

 

二宮: 身長による有利・不利はありますか。

清水: それぞれメリット・デメリットがあると思います。たとえば、身長が低いと素早く動いているように見えますが、ダイナミックさに欠ける。反対に、身長が高いと技に見栄えが出ますが、動きが遅く見えたり、技の粗さが目立ったりします。

 

二宮 清水さんは、世界では(身長が)高いほうですか。

清水 私は160センチあって、高いほうに入ります。組手の場合は、足の長いほうが相手に届きやすいので有利ですが、形の場合はあまり足が長いとバランスが悪く見え、不利です。

 

二宮 空手の試合会場は、日本武道館(東京都千代田区)です。使われる畳マットは、もう体験されましたか。

清水 会社(ミキハウス)が用意してくれて、実際に練習で使っています。

 

二宮 畳マットも種類によってだいぶ違うでしょう?

清水 違いますね。今回使用されるマットは日本製で、かなり引っかかる感じがあります。海外のマットはビニールみたいに滑るような感覚があるのですが、それと比較するとスポンジのような感じです。このマットに合わせ、技の打ち方や踏み込み具合も調整しています。

 

二宮 清水さんご自身の話もお聞きしたいのですが、空手を始めたきっかけは?

清水 先に空手をやっていた兄の影響です。道場で形の練習をしていた人たちを見たときに、すごくかっこよくて。それまで、空手といえば組手しか知らなくて、“怖い”というイメージが強かったんです。でも形の練習を見て、そのイメージがガラリと変わりました。

 

二宮 相当厳しい練習をされてきたと思いますが、今まで空手をやめたいと思ったことは?

清水 正直、何回かあります。思うように結果がついてこなかったり、うまくいかなかったりして、しんどくなって空手から離れたいと。でも、今はやめなくて本当によかったと思っています。

 

(後編につづく)


◎バックナンバーはこちらから