様々な意見が飛び交い、多くの議論を呼ぶ中で開催された東京オリンピックが無事に閉幕した。

 この状況下で開催したことがどのような影響を及ぼすのか。いろいろな意見はあると思うが、最終的には後々に分かるのではないかと思っている。そもそもこのコロナ対応でさえ、本当の正解など誰も分からない。初めて対峙する危機にそれぞれが、それぞれの経験と知見を活用し道を探りながら進んでいる状態。きっと未来から振り返った時に初めて「あの時はそんなことしか考えなかったけど、こうだったんだなぁ」なんて思えるのではないかと。もちろん今現在の議論を否定するものではないが、パリ大会開催の頃に、東京大会を振り返ると、どんな見え方がするのか少々楽しみだ。

 

 それはともかく僕は今回、東京にオリパラが来て、すでにその成果をヒシヒシと感じるものがあった。それは、オリパラという黒船で、日本国内の様々なシーンで、世界スタンダードを知り、洗礼を受けたこと。前組織委員会会長の女性蔑視発言に対する批判、開会式演出担当者を巡るゴタゴタ、海外選手の亡命などなど。これまでの国内の感覚だけでは考えられなかったことが嵐のように過ぎていった。もし、オリパラがなければこれらに気が付かない、もしくは問題視しない日本人は少なくなかったのではないか。

 

 どんなに過去であっても人権差別に関する発言というのは厳しく問われるということ。ジェンダーハラスメントは許されないということ。これまでの日本社会なら、「まあ親愛さがあるから言えるんだから」とか「コミュニケーションだよ」なんて言葉で許されてきたし、だからこそ、そういう方々が活躍できた。しかし、グローバルスタンダードでは「ありえない」ということを皆が感じずにはいられなかったのではないだろうか。ある往年の名野球選手は、大会終了後にTVでハラスメントコメントをして、非難を浴びていた。このグローバルスタンダードの潮流を感じられないようでは、これからの表舞台では活動できないということだろう。

 

 大会直前にはウガンダ重量挙げ代表のジュリアス・セチトレコ選手が、母国へ帰っても貧しくてつらいので日本で働こうと失踪した。ベラルーシ陸上代表のクリスチナ・チマノウスカヤ選手が政権との対立が原因で強制帰国されそうになり、帰国後の処遇に危機を感じて成田空港で亡命した事件もあった。国はもちろん友人や仲間、それまでのすべてを捨てても、母国を脱出せざるを得なかったという状況。もちろん2人の事情は同じではないが、そんな決意を日本で普通に生活していると感じることはない。どれだけ母国での生活が厳しいものであったのか。日本という国が平和であるのか。ここにいると感じることもないが、こうした事件から世界の状況を知り、感じることが大切ではないか。

 

 オリパラが教えてくれること

 

 少し明るい話としては、男子マラソンの終盤、2位集団から抜け出したオランダのアブディ・ナゲーエ選手が何度も振り返り、後方にいたベルギーのバシル・アブディ選手に「ついて来い」と励ますジェスチャーを繰り返した。“国も違うのに、ここまで露骨にやるのは珍しいな”と思っていたら、2人は共にソマリア難民で若くして母国を離れざるを得なかった。その後、違う国籍にはなったが、この局面で励まし合い、銀メダルと銅メダルを獲得した。若くして国籍を変えざるを得なかった苦しみ。そこから這い上がってきたメンタリティ。我々日本人が忘れているものをもっと詳しく知りたかったが、この件を深く掘り下げて取材してくれるメディアは見つけることができなかった。日本人のどれだけが、ソマリア難民の実情や、今回の話を知っているのだろうか……。

 

 こんな国際問題をリアルに感じることができるのもオリパラ。
 日本選手の活躍ももちろん知りたいが、これを機会にもう少し世界を知る機会にして欲しかったとも思う。

 その意味では、オリパラ開催は、世界に日本を知ってもらう機会でもあるが、日本が世界を知り、感じる機会なのだ。スポーツ選手・関係者としてはもちろんだが、世界の人々がそれぞれの文化や慣習をもってやって来る。そのことにも目を向けるべきではないのか。

 

 だが、まだ残念がるには早い。そう、我々にはこれからパラリンピックがある。

 選手の素晴らしいパフォーマンスに注目するのはもちろんだが、こんな視点でも見ることができたなら、自国開催の意義はもっと深まるのではないだろうか。

 

 この機会に世界に目を広げよう。

 きっとオリンピック・パラリンピックはそんなことを教えてくれる大切な機会なんだ。

 東京パラリンピックは8月24日開幕!

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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