8月9日から始まった第103回全国高等学校野球選手権大会、夏の甲子園は7度の順延に見舞われながら、29日の決勝に向け、熱戦が続いています。昨夏の交流大会から球児の足元に変化が起きているのにお気づきでしょうか。そう、白スパイクの着用です。


 これまで高校野球のスパイクは黒一色と決められていました。だが、昨今、熱中症対策の一環として高野連が、19年5月に「スパイクについて、来春から白の使用も認める」と決定しました。それに先駆け、同年9月、韓国で行われた野球U-18ワールドカップに出場した高校日本代表が全員、白いスパイクを履いてゲームを戦いました。甲子園大会での白スパイクは20年のセンバツと夏の大会が中止となったため、昨夏の交流試合が初お披露目でした。

 

 黒と白のスパイクでどれほどの差があるのでしょうか。スポーツメーカーのミズノは「内面、表面共に最大約10度低くなる」とのデータを示しています。昨夏の交流試合では出場32チーム中14チームが白スパイクを履き、今年のセンバツでは更に白が浸透し、黒スパイク使用チームは8校だけでした。

 

 猛暑の中で行われる高校野球での生徒の安全管理に対し、高野連もやっと重い腰を上げた格好です。2年前の選手権大会開催中、神戸気象台が観測した最高気温は軒並み32℃を超え、平均気温は28.4℃でした。高校生の安全を考えれば、「暑さ対策」は何よりも急務です。18年夏の大会では開会式中に飲料を携帯させて、式典途中に給水時間を設けました。また試合中もバックネット裏本部委員の判斷で給水や休憩時間を取れるようにしました。

 

 またその翌年からは準々決勝翌日だけだった休養日を準決勝翌日にも設け、今夏はさらに休養日が3回戦の後に1日追加されました(ただし順延による日程調整により消滅)。白スパイク導入も「暑さ対策」の一環です。

 

 さて、夏の高校野球はどれほど暑いのでしょうか。経験者に聞いてみました。89年夏の甲子園に上宮(大阪)から出場した元木大介さん(現巨人コーチ)の証言です。
「一番、暑い、というか熱いのは足です。しかも足の裏なんです。昔、僕たちが履いていたスパイクはカンガルー革で、ソールが非常に薄かった。そこに金属の歯を釘で装着しているので、地面の熱がまともに足の裏にくるんですよ。尋常じゃない熱さです。だからスパイクの上からじゃんじゃん水をかけていました。その水もすぐに蒸発するくらいの熱気でしたよ」

 

 元木さんはさらに続けました。

 

「次に熱いのが金属バットです。"さぁ、こーい!"って打席でバットを担ぐと、首筋に当たって"アチチッ!"となる(笑)。炎天下、地面に置いていた金属バットなんて持てないですよ。だからうちの高校はバケツの氷水で冷やして使っていました。よく強豪校の秘密として"冷やすと反発係数が上がって飛距離が伸びる"とか言いますけど、多少はあると思いますが、それが目的ではありません。単純に熱いから冷やしていたんです。甲子園ではベンチにバケツを持ち込めなかったから冷やしてませんでしたけどね」

 

 余談ですが、元木さんはその熱いバットのまま甲子園で1試合2ホーマーを記録しています。

 

「とにかく、真夏の高校野球は大変ですよ……」

 

 経験者の重い言葉です。次の100年を目指す高校野球には、ぜひとも球児の安全と健康を守る施策をこれからも導入してもらいたいものです。

 

 

(文・まとめ/SC編集部・西崎)


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