日本シリーズ初戦で北海道日本ハムのダルビッシュ有が中日からシリーズ最多タイの13三振を奪った。先発全員からの奪三振はシリーズ初という快挙。
 私が注目したのは13奪三振の内訳。このうちの12個が空振りで、見逃しは、わずかにひとつ。
 これは何を意味しているのか。ダルビッシュのボールは「打てそうで打てないボール」ということである。

 セ・リーグで3度、奪三振王に輝いたことのある川口和久(広島−巨人)から、かつてこんな話を聞いたことがある。
「ピッチャーにとって空振りと見逃し、どっちの三振がうれしいかというと、それは見逃し。
 なぜかというと、見逃しはバッターにスイングすら許さない、つまり手も足も出ないボールだからです。“どうだ、まいったか!”というのは、やはり見逃し三振ですね」

 たとえばアウトコース低めいっぱいに糸を引くようなストレートが決まる。バッターはピクリとも動けない。こんな時、ピッチャーは至福を感じるのだろう。

 翻って空振りは、バッターからすれば“誤算”である。打てると判断したからバットを振ったのだ。
 ところがカスリもしない。これは見た目以上にボールが伸びているか、予測以上に手許で変化しているかのどちらかである。
 いや、ダルビッシュの場合、そのどちらにも該当するのではないか。つまり打てそうで打てない――それがダルビッシュ有というピッチャーの本質だろう。

 そういえば38歳にしてパ・リーグのホームラン王に輝いた山崎武司(楽天)が、こんなことを言っていた。
「今、日本で一番いいピッチャーはダルビッシュ。とりわけインコースのボールは凄い。打てそうで打てない」

 北京五輪に向けてのアジア予選が12月1日から始まる。ダルビッシュ有が日本の不動のエースであることは言を俟たない。ところで彼はいつまで日本球界にとどまるのか……。

<この原稿は07年11月19日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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