鈴木孝幸、100m自由形で今大会日本人第1号の金! 連日のメダル獲得 ~パラ競泳~

facebook icon twitter icon

(写真:鈴木選手<左>と当HP編集長・二宮清純。2013年1月撮影)

 26日、東京パラリンピックの競泳競技2日目が東京アクアティクスセンターで行われた。男子100m自由形(運動機能障がいS4)決勝は鈴木孝幸(ゴールドウイン)が1分21秒58のパラリンピック新記録で優勝した。金メダルは4大会ぶり。鈴木は前日の50m平泳ぎ(運動機能障がいSB3)に続く、今大会2個目、自身7個目のメダル獲得となった。男子400m自由形(視覚障がいS11)決勝は富田宇宙(日本体育大大学院)が4分31秒69のアジア新で2位に入り、銀メダルを手にした。金メダルは4分28秒47のロヒール・ドルスマン(オランダ)が獲得。日本勢はこのほか、宇津木美都(大阪体育大)が女子100m平泳ぎ(運動機能障がいSB8)で6位、斎藤元希(国士舘大PST)が男子100m背泳ぎ(視覚障がいS13)で8位入賞を果たした。

 

<今日の自分は、昨日の自分への挑戦者だ。>

 地下鉄・辰巳駅のホームから会場の東京アクアティクスセンターに向かう途中の連絡口には、水泳競技のオリンピアンたちとパラ競泳の選手たちと並んで鈴木が起用された広告(写真)が掲載されていた。プールに飛び込もうとする写真と共に添えられた文字が冒頭の言葉である。彼にとって2004年のアテネから5大会連続出場となったパラリンピック。前日は50m平泳ぎで銅メダルを獲得しており、まさに<昨日の自分>に挑戦し、勝ったのだ。

 

 午前に行われた予選は全体2位で通過。決勝は5レーンを泳いだ。前半の50mは2位でターンした。トップのルイジ・ベジャット(イタリア)との差は0秒59。「落ち着いて前半入るのを心掛けた」と振り返ったように、先行されても慌てなかった。「テンポを崩さないように、自分のスピードを落とさないようにと考えていた」。徐々に差を詰めると、残り10mあたりで追い抜いた。

 

 そのまま2位に1秒63の差をつけ、ゴールした。フィニッシュタイム1分21秒58は自らが持つ日本記録(1分21秒53)に及ばなかったものの、パラリンピック記録を17年ぶりに更新した。順位を確認すると、雄叫びを上げガッツポーズ。レース後、「自然に出ましたね。あとで消しておいてください。やり過ぎました」と反省したが、それだけ喜びもひとしおだったのだろう。

 

 競泳陣は連日のメダル獲得。競泳チーム主将が今大会金メダル第1号となり、チームジャパンを勢いづけた。鈴木自身は7個目のパラリンピックメダル。金メダルは08年北京大会の50m平泳ぎ(運動機能障がいSB3)以来、13年ぶりだ。「北京の金メダルはほぼ忘れている」と笑い、「新しい気持ちで金メダルをもらえたような感覚」と表現した。

 

 今大会のエントリーは残り3種目。50m、200m自由形(運動機能障がいS4)と150m個人メドレー(運動機能障がいSM4)でもメダルを狙う。34歳・鈴木の挑戦は続く――。

 

(文/杉浦泰介)

 

■関連記事

挑戦者たち~二宮清純の視点~(2013年2月掲載)

 

「メダルは皆さまからのプレゼント」 ~男子400m自由形(視覚障がいSB11)~

 

 鈴木のレースから約45分後、パラリンピック初出場の富田が銀メダルで続いた。

「金メダルを獲ったことはレース前に聞いていました。すごくうれしかったし、“自分も続いて日本チームに勢いをつけるぞ”という強い気持ちを持って臨みました」

 

 400m自由形(視覚障がいSB11)は19年世界選手権ロンドン大会でも銀メダルを獲得した種目だ。5年前は出場することすらできなかったパラリンピックだが、32歳にして辿り着いた大舞台にも臆せず挑んだ。

 

 予選1組トップ、全体2位で決勝にコマを進めた。レースプランは「予選は前半が速かったから、そのままいくか、いつものペースでいくか悩んだ」が同様のペースで泳ぐことを選んだ。「粘り勝つ」。後半勝負に賭けた。

 

 ライバルのドルスマンは19年世界選手権王者。ロンドンでの同種目では4秒以上の差をつけられた相手だ。100mのターンはそのドルスマンに次ぐ2位につけた。150mのターンは3位と順位を落としたが、200mでファ・ドンドン(中国)を抜き返した。その後もファの追い上げを許さず、2位をキープした。

 

「ラスト100(m)は死ぬかと思いました」と富田。「最後は気持ちだけでスピードを上げました」と力を振り絞り、ゴールまで泳ぎ切った。プールから上がってからも、すぐには立ち上がれないほど力を出し尽くした。ドルスマンには3秒以上離されたが、3位には3秒以上の差をつけて先着した。

 

 全盲の富田によれば、レースを泳いでいる時は「真っ暗で、終わるまで何もわからない」という。ライバルとの差はわからない。孤独なレースを支えるのは、タッパーの存在だ。先端にスポンジのようなものをつけた棒で、ターンのタイミングとゴールの位置を知らせてくれる。

 

 だからこそ支えてくれた人たちへの感謝を忘れない。初の銀メダルを「皆さんからメダルというプレゼントをいただいた」と表現した。

「たくさんの方々が支援してくださったからここに辿り着くことができた。皆さんに導かれ、メダルをもらえた」

 

(文/杉浦泰介)

facebook icon twitter icon
Back to TOP TOP