二宮清純: 近年、eスポーツ市場はどんどん大きくなっていると聞きます。現在、国内のeスポーツ人口は?

影澤潤一: 日本でゲームをする人は3000万人から5000万人いると言われています。それがeスポーツという、競技や大会に出場する人になると、約10万人にまで絞られます。

 

二宮: ライト層とコア層の人数差は他のスポーツにも当てはまりますね。例えば卓球なら温泉で楽しむなど“卓球をしたことがある”という人はたくさんいるけど、本格的に競技をやっている人に限れば、その数はだいぶ減りますもんね。

影澤: まさにそういう感じですね。また同じシーンでも「ゲーム」と呼ぶか「eスポーツ」と呼ぶかによって、人それぞれの反応が違いますね。

 

伊藤数子: 「ゲーム」と「eスポーツ」はどのように分けているのですか?

影澤: そこは相手によって臨機応変に対応しています。やはりまだネガティブなイメージがあるのか、「ゲーム」という名称より「eスポーツ」を用いた方が、企画やイベントが通りやすい場合もあるんですよ(笑)。一方、「ゲーム」の中には「eスポーツ」のように競技性があるものだけではありません。ロールプレイングやシミュレーションゲームなどが好きな人にとっては「eスポーツ」より「ゲーム」の方が馴染みやすい。あえて「eスポーツ」と呼ばない方がいい時もあるんです。eスポーツの認知度は上がったのですが、まだ“他人ゴト”で興味のない人も少なくない。競技を普及させるためには、いかに“自分ゴト”にしてもらえるかが大事だと思っています。

 

二宮: ゲームをしたことがあるという人たちに、eスポーツを“自分ゴト”にしてもらうための環境づくりが必要ということですね。競技普及のためには、未経験者をどれだけ引き込めるか。草野球、草サッカーのように本格的ではないかもしれませんが、それぞれのスポーツを経験したことがある人は一定数います。まったくゲームやeスポーツに触れたことがない人が、“草ゲーム”“草eスポーツ”といった感じで気軽に楽しめる敷居の低さも重要になってくるでしょうね。

影澤: そうなんです。幸い、日本にはゲームセンターがあるので、おっしゃるような“草”で楽しむ環境が昔から存在しています。ただゲームセンターに対しては、ネガティブなイメージを持たれている方も少なくない。それも含め、ゲームやeスポーツに対する偏見も残っているのが事実ですね。「ゲームばかりしていると成績が下がる」といったふうに、どうしても“悪者”にされがちです。

 

二宮: 新しいカルチャーは必ず叩かれますね。今から100年前に「野球害毒論」というものが存在しました。当時、朝日新聞が「野球をすると頭が悪くなる」「人を騙すから、ろくな人間にならない」というようなことを主張していました。それが今では高校野球の全国大会を主催しているんですからね。おそらくeスポーツはまだ歴史が浅いため、“新参者”として叩かれているのかもしれません。

影澤: そうですね。少し前でいうと音楽、漫画やアニメもそういう扱いを受けていたと思います。

 

伊藤: 「漫画ばかり読んでいたら頭が悪くなる」などと言う人もいた。それが今や日本が誇る文化のひとつにあげられますからね。

影澤: だからこそ同じような道を辿っているeスポーツには可能性があると感じています。

 

 地域活性化の力に

 

二宮: 私もそう思います。NTTグループ全体としては、eスポーツを普及させるメリットをどのように感じているのでしょう?

影澤: 元々、NTTグループは「地域活性化」をミッションに掲げています。過疎化や少子化といった地域の課題を解決するためのひとつとして、「eスポーツ」を考えています。コミュニケーションツールなので、それを核に地域と人を繋ぐ役割を担える。地域の人たちが幸せに過ごせる、人生を豊かにするということがベースになります。そのためにもNTTの持っている通信技術やサービスを生かしたい。全国各地にある通信局舎を絡めたアセットの活用し、事業を進めることもできます。

 

二宮: NTTの局舎は、どこに行っても大きい。私の田舎の方でも立派なものが建っています。人口が少なくなり、固定電話も減ってきた。その意味では局舎スペースを、今回お邪魔している「eXeField Akiba」のようなeスポーツ施設に利用していくこともできそうですね。

影澤: そうですね。実際に神奈川県の横須賀市では自治体と一緒になって局舎を使った新たな施設建設の計画を立てています。eスポーツだけの施設というよりは、地元の方々が多目的に利用できる施設にしたい。電力、ネットワークや高スペックなパソコンといったeスポーツのための環境を揃えておくことで、他のことにも対応できる。例えばコワーキングスペースとして利用できますし、大型のモニターと音響設備を揃えればミニライブも行える。可能性はたくさんありますね。

 

二宮: eスポーツはプレイヤー同士が離れていた場所にいても、対戦できるのが長所ですね。

影澤: はい。現在のようにコロナ禍でなかなか都道府県をまたいで移動することが困難な中で、オンラインでもできるのは強みですね。エンターテインメント業界、スポーツ業界にとって、コロナは逆風でしたが、他と比べればeスポーツのダメージは小さくすみました。

 

二宮: eスポーツは障がいのある人との親和性が高いと言われています。年齢、性別、体格の差に影響を受けないスポーツです。その意味で障がいの有無、大人と子供の垣根が低いですよね。

影澤: おっしゃる通りですね。ただ残念なのは本来、誰もが楽しめるスポーツとして、参加することの障壁が低く、共生社会を実現できるというのがeスポーツなはずなのに、わざわざ障がいのある人“だけ”のためのイベントとして区切ってしまっているケースがある。

 

伊藤: 逆に壁をつくってしまっている場合があるということですね。

影澤: そうなんです。せっかくeスポーツは、「スポーツとパラスポーツの間に位置し、垣根がない」と言われているのに、区別してしまっている。それではeスポーツの良さを生かせません。たまたまそこに障がいのある人がいる。同じスタートラインに立てれば、平等に戦える。当たり前のように混ざり合う社会にしていきたいと思っています。

 

伊藤: 今後に向けては、どのような活動を?

影澤: まず私がやるべきと考えているのはeスポーツ業界の地位向上です。例えば、昨年スタートした社会人リーグ「eスポーツ企業対抗戦」の開催や、「eXeField Akiba」のようなeスポーツを楽しむ環境を提供する。また、ネガティブなイメージを払拭するための事業も必要ですから、「eスポーツ」と「教育」がセットになるコンテンツをつくることで、「ゲームが勉強の阻害になる」という偏見を取り払う。学校や自治体と連携して専用ソリューションを提供する事業も考えています。その中にはプロゲーマーによるオンライン講演や指導といったものも含まれています。このようにまだまだやるべきことは山積みですが、幸いにもたくさんの理解者や協力者がいますので、これからも頑張りますよ。

 

(おわり)

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影澤潤一(かげさわ・じゅんいち)プロフィール>

株式会社NTTe-Sports代表取締役副社長。1979年、東京都生まれ。2004年に筑波大学大学院理工学研究科を修了し、東日本電信電話株式会社(NTT東日本)に入社。サービス開発やNW運用などに従事する傍ら、20年以上前から格闘ゲームを中心としたコミュニティーイベントの企画などを手掛けてきた。その実績が買われ、NTT東日本のeスポーツ事業立ち上げのプロジェクトリーダーに就任。2020年1月に設立した株式会社NTTe-Sportsにてゲームを文化にする活動に尽力している。得意なスポーツは野球と水泳。ゲームは「ストリートファイター」シリーズ。

 

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