ショッキングな敗戦だった。

 誰がこの結果を予想しただろうか。これまでオマーンとは僅差の勝負を展開してきたとはいえ、欧州シーズン開幕直後になる一発目の試合はコンディション的にかなり難しい試合になると考えられたとはいえ、「完敗」は想定外である。

 スコアは0-1。5年前にハリルジャパンがアジア最終予選初戦でUAEに敗れた試合と比較しても、内容が悪すぎる。あのときはレフェリーの微妙な判定がクローズアップされたが、今回はそういった問題もない。

何度、ゴールを脅かされたことか。逆に、何度相手ゴールに迫れたのか。勝利はオマーンが手にするにふさわしかった。吉田麻也キャプテンが言ったように「負けるべくして負けた試合」であった。

 オマーンを率いるブランコ・イバンコビッチ監督の対策どおりにやられてしまった感がある。中を絞ってセンターラインに入るパスをことごとくつぶされ、トップ下の鎌田大地、1トップの大迫勇也にいい形でボールが渡らない。リスクマネジメントによるセーフティー重視は理解できるものの、両サイドを押し上げていくこともない。ゴールを奪う発想よりもまずは点を奪われないことに意識を向けているような展開。オマーンのプレッシングに手を焼く一方で、こちらはなかなか連動したプレッシングを発動できない。ズルズルと時間が流れ、日本の総合力を警戒していたオマーンに「これ、いけるんじゃないか」とその気にさせてしまった。

 

 敗因は大きく2つあるように思う。

 1つは明らかな選手たちのコンディション不良。欧州組のコンディションがまだまだなのは予想できたが、五輪組の疲労が抜けきっていない。遠藤航こそいつもどおりのプレーだったが、酒井宏樹はミスが目立ち、動きは良くなかった(試合後に離脱が発表された)。東京五輪であれだけエネルギッシュだった久保建英にも迫力がないように映った。真夏に中2日で6連戦をこなしたのだから無理もない。

 もう1つはベンチワーク。オマーンがいくら対策をしてきても、6月の日本代表であれば個々の力ではね飛ばしたに違いない。力の差は当然あるのだが、1カ月入念に準備してきたオマーンとのコンディションの違いが距離を縮めていた。

戦術をジャンケンにたとえれば日本の「チョキ」に対して、オマーンは「グー」を出してきた。これまでどおりアジア相手にはチョキを大きくしていくこと、つまりは組織性の持続や個の力によって、グーに勝つことは可能だった。しかし今回は選手のコンディションを考えると、チョキを大きくしていくことは難しい。結果論で恐縮だが、フォーメーションを変えるなり、フォーメーションを維持しつつもトップを大迫から古橋亨梧に切り替えるなど明らかにタイプの違う選手を次々に入れていくなり、これまでとは違う手法を選択すべきだったと言えるのかもしれない。「グー」でくるなら「パー」を出しますよ、と。

 森保一監督はハーフタイムに古橋を左サイドに入れ、後半途中に堂安律、久保と投入していったが、効果があったとは言えない。勝ち点3を得るための「もがき感」「必死感」がベンチから伝わってこなかったのも残念だった。

 

 だが幸いなことに、最終予選は始まったばかりだ。あと9試合残っていると考えると、十分に挽回できる。目覚めるきっかけになればいい。

 ドーハで開催される次の中国戦まで数日しかないが、指揮官としては選手のコンディションを見極めてまず11人をチョイスすること、中国を分析すること、そしてチョキを大きくできないならパーを出す、要は「プランB」を準備しておくこと、選手を発奮させてチームをひとつにすること。森保監督の真価がまさに問われる大一番だ。

一方で選手たちも待ちの姿勢だけではいけない。

「アブダビの夜」を覚えているだろうか。

 2005年6月のドイツワールドカップアジア最終予選バーレーン戦(アウェー)を前に、ジーコジャパンはキリンカップで2連敗。当時の宮本恒靖キャプテンが合宿地アブダビで選手ミーティングを呼び掛け、三浦淳寛の「俺はワールドカップに出たい。これだけのメンバーがそろっているチームが出られないはずがない」との言葉がチームメイトの心に火をつけたという。戦術についてもジーコ監督と宮本はよく話し合いの場を持っていた。こういった選手側からのアクションも重要になる。吉田のキャプテンシーに期待したい。

 最大のピンチを、最大のチャンスに変えるしかない。

 森保ジャパンの命運は次で決まると言っても過言ではない。


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