その実力は本物だった。

 今夏、名古屋グランパスに加入したポーランド代表のストライカー、ヤクブ・シュヴィルツォクが9月14日、豊田スタジアムで行なわれた大邱(韓国)とのACL(アジアチャンピオンズリーグ)のラウンド16においてハットトリックをマークし、準々決勝進出の立役者となった。

 

 1点目は左サイドの崩しから右足でゴール右隅へ決めて同点に追いつき、2点目は左サイドからペナルティーエリア内に侵入した森下龍矢のクロスにヘディングで合わせて再びゲームを振り出しに戻した。

 圧巻は決勝点となる後半20分の3点目である。

 左サイドバックの吉田豊から縦に長いパスが送られたが、相手側に渡ってしまう。しかしシュヴィルツォクはあきらめない。ボールホルダーに体をぶつけてペナ内で奪い取り、そのまま右足を鋭く振り抜いてファーに突き刺したのだ。

 高く、強く、そして何よりもシュートを打てばゴールの香りが漂う。

先のEURO2020にも出場しているとはいえ、これまで欧州の主要リーグで活躍してきたわけではないために未知数な部分もあった。だが加入してこれで公式戦8試合6ゴール。もはやその実力を疑う者はいない。

 グランパスは“ウノゼロ”の堅守のイメージが強く、得点力が課題であった。シュヴィルツォクの存在も大きいが、彼の2点目をアシストした森下の躍動ぶりも光る。元々はサイドバック。サガン鳥栖から移籍した今シーズン序盤はほとんど出番を与えられなかった。だが左サイドハーフで新境地を開き、チームのキーマンになりつつある。

 さすがにJ1の逆転優勝は難しいが、ACL初制覇の可能性は十分にあると言っていい。天皇杯、ルヴァンカップも勝ち残っており、彼らの活躍がタイトルへの期待を抱かせている。

 

 シーズン後半に入ってチームが勢いづくにはこの“セカンドエンジン”を担う選手がどうしても必要になってくる。

 圧倒的な成績で優勝を飾った昨シーズンの川崎フロンターレを見てもそうだ。チームの連勝が「10」で途切れた後、ひと息つくどころか12連勝を挙げたことができた背景にはケガから復帰した中村憲剛や出場機会を多く得るようになった齋藤学らが新たなパワーをチームにもたらしたからだ。

 今季は序盤こそ独走していたが、ここに来て失速気味。田中碧、三笘薫という中核が抜け、ケガ人も続出している事情もある。しかし〝セカンドエンジン〟役が出てこないことも無関係ではないように感じる。知念慶や宮城天らが奮起してひと皮むけてくれば、〝再点火〟のきっかけとなるはずだ。

 一方、そのフロンターレを勝ち点1差で猛追する横浜F・マリノスは〝超攻撃スタイル〟を築き上げたアンジェ・ポステコグルー監督がチームを去り、エースのオナイウ阿道が今夏、欧州に渡った。

 そんな状況下ながらチームは上昇していく。

これまでの路線を踏襲するケヴィン・マスカット新監督を迎え、新エースとなったレオ・セアラが気を吐き、チーム事情で複数のポジションを兼任する岩田智輝の存在感が際立つ。2019年のリーグMVPである仲川輝人も復調気配にあり、“セカンドエンジン候補”が多いことは終盤戦の勝負どころにおいて有利に働いてくるに違いない。

 

 この話、森保ジャパンに置き換えてもいい。

 森保一監督が東京五輪代表と兼任という形でA代表の監督に就任したのが2018年7月。丸3年が経過して、ここからラストスパートに入る。9月にスタートしたアジア最終予選では初戦、ホームでオマーン代表に敗れ、いきなり窮地に立たされてしまった格好だ。

 今後の厳しい戦いに勝っていくにはチームに勢いをもたらす“セカンドエンジン”がどうしても欲しい。レギュラー獲りに意欲を燃やす選手が結果を残していけば、必ずや新しい科学反応が起こるはずだ。

 特に東京五輪代表世代の久保建英、田中碧、林大地らにとってはこれからがチャンスになる。

新しい力が台頭してこそ、チームも強くなる。

 セカンドエンジン”に誰が名乗りを挙げてくるのか、注目したい。


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