同僚への暴力行為で球団から無期限出場停止処分を受けていた北海道日本ハム・中田翔の巨人移籍が決まり、8月22日には移籍1号をマークした。

 

 

<この原稿は2021年9月13日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

 

 電撃移籍の背景には、日ハム・栗山英樹監督と巨人・原辰徳監督のホットラインがあった。

 

「非常に強い選手。新たなチームに大きな希望を持って来てくれた」

 と原。日本一3回、リーグ優勝9回の名将に、ここまで言われれば、それこそ天にも昇る気持ちだったろう。

 

 栗山の「甘いかもしれないけど、やはり野球でしか人生はよくならないと思った」の言葉に、情の深さを感じた。中田はいい上司を持った。

 

 一方で、電撃移籍により、無期限出場停止処分がなし崩し的に解除されるのも、どうなのかという気持ちになる。

 

 スポニチ紙(8月21日付)のアンケートによると無償トレードに「賛成」が31・8%、「反対」が31・3%、「どちらとも言えない」が36・9%で、世論も割れていた。

 過ちをおかした選手に、チャンスを与えるのはいい。しかし、それは“みそぎ”を済ませた後、すなわちシーズン終了後でもよかったのではないか。

 

 というのも、「暴力行為の根絶」は野球界のみならず、スポーツ界全体に突き付けられた課題だからである。

 

 暴力行為が相次いで表面化した8年前の2013年、JOCなど5団体は「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」を打ち出した。

 

<スポーツにおける暴力行為は、人間の尊厳を否定し、指導者とスポーツを行う者、スポーツを行う者相互の信頼関係を根こそぎ崩壊させ、スポーツそのものの存立を否定する、誠に恥ずべき行為である。>

 

 暴力行為の代償が、どれだけ高くつくか。さすがに今回は中田も懲りただろう。

 問題は“なし崩し解除”の世間に与える印象だ。「プロ野球の世界は暴力に甘い」。そんな負のイメージが広がらなければいいのだが……。

 


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