メジャーリーグの日本人パイオニアである野茂英雄がドジャース1年目の1995年、いきなり奪三振王と新人王に輝いたことは記憶に新しい。

 

 

<この原稿は2021年9月号『経済界』に掲載されたものです>

 

 この時、野茂に「今後の目標は?」と問うと、「いつかサイ・ヤング賞を獲りたい」と抱負を口にした。

 

 サイ・ヤング賞とは、言うまでもなく、そのシーズン最高の投手に贈られるタイトルである。ア・ナ両リーグからひとりずつ選ばれる。

 

 この賞に最も近付いた日本人投手は、カブスのダルビッシュ有(現パドレス)だ。コロナ禍で60試合しか行われなかった昨季、ナ・リーグ最多の8勝(3敗)、同2位の防御率2・01、同4位の93奪三振をマークしたが、全米野球記者協会会員の投票の結果、レッズのトレバー・バウアー(現ドジャース)に78ポイント差で敗れた。

 

 しかし、近い将来、ダルビッシュか別の投手はともかく、日本人投手の誰かがこの賞に選出される可能性は高い。それくらいメジャーリーグにおける日本人投手の評価は高いのだ。

 

 サイ・ヤング賞と違って、このタイトルは無理だろう、とはなっから諦めていたタイトルもある。ホームラン王だ。いくら日本人の体格がよくなってきたとはいえ、外国の力自慢たちと比べれば見劣りがする。

 

 日本の長距離砲で、初めてメジャーリーグに挑戦したのがヤンキースなどで活躍した松井秀喜だ。巨人時代の2002年にはホームランを50本台(50本)に乗せ、自身3度目のホームラン王に輝いている。

 

 この松井のパワーをもってしても、メジャーリーグでの1シーズンの最多本数は04年の31本。この年のア・リーグのホームラン王は43本を記録したマニー・ラミレス(レッドソックス)。12本もの差があった。

 

 だからこそ、大谷翔平(エンゼルス)のパワーには舌を巻かざるを得ないのだ。7月5日現在、31本でブルージェイズのウラジーミル・ゲレロJr.に4本差をつけ、ア・リーグのホームランダービーのトップに立っている。

 

 投手をしながら、この本数である。バッターに専念していたら、あと何本かは上乗せしていただろう。

 

 驚くのは飛距離だけではない。レフトからライトまで広角に打ち分ける技術だ。広角打法といえば、“安打製造機”の異名をとったイチローのオハコだが、それはあくまでもヒットに関する話。大谷はレフト・センター・ライトと、どこへでも自在に打球を運ぶことができる。

 

 私が見る限り、13本をマークした6月に入り、明らかにスイングがかわった。それまでは状況に応じたバッティングをしていたが、6月以降は“ホームランの打ち損ないがヒット”とでも言わんばかりの豪快なスイングが目立つ。

 

 このままのペースで打ち続ければ、シーズンが終わる頃、ホームランは61本に達する。日本人初のホームラン王は、もはや夢ではなく現実である。


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