最終予選は結果がすべてである。

 内容が悪くとも勝つことが大事であり、内容が良くとも負けてしまっては意味がない。

ここまで2連勝しているサウジアラビアとのジッダでのアウェーマッチ。後半にバックパスをかっさらわれて先制点を奪われ、初戦のオマーン戦以来の2敗目を喫してしまった。ボールを落ち着かせられず、高温多湿の環境で体力を奪われてしまっては攻撃にも迫力を出せない。交代カードも効果なく、状況を覆すだけのパワーもなかった。

 

 深夜にこの中継を観ながら、何年か前に「ジョホールバルの奇跡」を語ってもらった川口能活の言葉を思い起こした。

 1997年11月16日、日本は最終予選をグループ2位で終え、イランとアジア第3代表の座を懸けてマレーシアのジョホールバルで一発勝負に臨んだ。勝ち越しを許して苦しい展開ながらも粘り強く戦い、延長後半に岡野雅行がゴールデンゴールを挙げて悲願のワールドカップ初出場を決めた日本サッカー史に残るあの試合である。

 

 川口はこのように述べた。

「イラン戦の120分間は最終予選の流れとまったく一緒でした。勝ってスタートして韓国戦の敗北、そして加茂(周)さんの解任があって、岡田(武史)さんのもと最後は連勝。イラン戦も先制しながら逆転され、こちらが追いついて最後は岡野(雅行)さんのゴールでした。最終予選の2カ月間でたくましくなったから勝てたのかなって思うんです」

 歴史に残るあの一戦は、確かに最終予選の流れそのものだと言える。

 後半14分にエースのアリ・ダエイのゴールで1-2となったときが、監督交代のタイミングと重なる。岡田監督は初陣となったアウェーのウズベキスタン戦で、先制されながらも、後半に入って中田英寿と呂比須ワグナーを投入するなど必死にもがき、終了間際に同点に追いついた。そしてこのイラン戦でも2トップを城彰二と呂比須ワグナーに入れ替えて、城のゴールで同点にしている。

 

 ホームのUAE戦では引き分けて自力突破が消滅し、チームバスはサポーターに囲まれて生卵や空き缶を投げつけられた。それでも彼らは奮起し、韓国、カザフスタンに連勝してアジア第3代表決定戦に駒を進めた。あきらめなかった結果が、ワールドカップ初出場を決める岡野のゴールにつながった。

「自分のサッカー人生においてあれほどの強烈なプレッシャーは、ほかにありません。プレッシャーに打ち勝ってワールドカップに行ったあの経験があるから、僕はどんなときも“最後は負けない”って思うことができる」

 失意の夜に、川口の言葉がやけに心に響く。

 

 最後は負けない--。

 サウジアラビアに敗れ、絶望的な雰囲気に包まれながらもフラッシュインタビューに応じた吉田麻也キャプテンが「次、勝つしかない」と必死に前を向こうとする姿に、一縷の希望を感じた。

 最終予選の流れは、1試合の流れと同じ。

 今の森保ジャパンに置き換えてみると、重症だと感じる。先制点を与えない「いい守備からいい攻撃」をモットーとするスタイルながら、先制点を与えてしまうとひっくり返せないどころか同点にも追いつけない。オマーン戦にしても、このサウジアラビア戦にしても。交代カードやフォーメーション変更など森保一監督の「次の手」がハマっていないのは否めない。

 最終予選を重ねるとすると、状況をひっくり返していく可能性は低いと言わざるを得ない。逆に言えばひっくり返すくらいの試合をしていかないと、ワールドカップには届かないということになる。あきらめない気持ちはもちろん前提としてなければならないが、それを引き出す策が指揮官になくてはならない。つまりは今のままでいいわけがない。

 

 自動的にワールドカップ出場権を得ることができる2位までに入るには、森保一監督が「変わる」か、日本協会が監督を「代えるか」そのどちらかになる。

 ここはチームの内情を把握する反町康治技術委員長やトップの田嶋幸三会長がどのように判断するのか。森保監督がいいチームをつくってきたのは確かだ。3月にはライバル韓国に3-0と圧勝し、チームを軌道に乗せてきた。ただメダルを獲れなかった東京オリンピックからの負の流れを断ち切れていない。

 それでも森保監督のもとでこの状況をはね返す力が残っていると考えれば12日のオーストラリア戦を見て今後を決めることになるだろうし、2敗を喫して悠長なことを言っていられないと判断すれば横内昭展コーチをひとまず昇格させて、新監督選びに入ることになるだろう。

 ワールドカップに出場できなければ、強化や普及においても大きな痛手となってしまう。ただこの状況を乗り越えることができれば、たくましさを身につけることができる。

 

 繰り返して伝えたい。

 ひっくり返すには、それ相応のパワーが必要だということ。単なる「様子見」では、決してそれは生まれない。


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