東京五輪の男子柔道100キロ級で、見事金メダルを獲得したウルフ・アロン。当HP編集長・二宮清純との語らいを通じて、その“柔道哲学”に迫る。

 

二宮清純: まずは金メダル獲得、おめでとうございます。100キロ級の金メダルは、シドニー五輪の井上康生さん(柔道男子日本代表監督)以来、5大会ぶりでした。

ウルフ・アロン: ありがとうございます。この階級の金メダルを何としても取り戻したいと思っていたので、こうして結果を残せてよかったです。

 

二宮: 前回(リオデジャネイロ五輪)も代表の有力候補でしたが、出場を逃しました。この五年間は長かったですか。

ウルフ: 今思い返せば短かったように感じますが、道のりのさなかは長いなと感じることもありました。

 

二宮: 近年の男子100キロ級は強豪がひしめき合い、最も激戦の階級と言われています。

ウルフ: 実際、一人一人が力をつけていて、誰が優勝してもおかしくないと感じています。

 

二宮: かつて重量級といえば、やはりパワーのある選手が目立ちましたが、近年はスピードも求められているように感じます。

ウルフ: おっしゃるとおりです。軽快な体さばきの外国人選手が増えているので、パワーとスピードのどちらが欠けても勝てない階級になってきています。

 

二宮: ウルフさんの柔道は、「ウルフタイム」といわれるように後半、特に延長戦での強さが際立っています。ご自身でもスタミナに絶対的な自信がおありでは?

ウルフ: 自信というよりも、自分の中では“試合が長引いても大丈夫”という安心感のほうが強いです。それによって、勝ち急ぐことがなくなりました。

 

二宮: なるほど。気持ちに余裕を持って戦えるわけですね。ウルフさんの柔道は一本勝ちもありつつ、ポイント(技あり)を取って確実に勝つこともできる柔道です。常に両方を視野に入れて戦っているように映ります。

ウルフ: 正直、あまり一本にはこだわっていません。私は単に生涯スポーツとして柔道をやっているのではなく、競技としての柔道をやっています。だから、勝つことが大事だと思うんです。どんなに内容がよくても、優勝しなければ評価は得られない。それが勝負の世界ではないでしょうか。

 

二宮: 特に日本柔道の場合は、いろいろな意味で金メダルと銀メダルの差が大きいですからね。

ウルフ: はい。それだけ皆さんの期待が大きい競技ということだと思います。

 

二宮: ここで少し試合を振り返っていきたいのですが、決勝の相手は一本背負いが得意なチョ・グハム選手(韓国)でした。開始1分を過ぎたころ、その一本背負いでヒヤリとする瞬間がありましたね。

ウルフ: 予想はしていたのですが、受け方が不用意でした。

 

二宮: しかし、延長に入ってからは強かった。危ない場面はほとんど見られず、決め技は鮮やかな大内刈でした。

ウルフ: 最後に決めるとすれば、大内刈りかなと思っていました。よかったのは、相手の左腕の脇あたりをつかめたことです。普通はもう少し手前の部分をつかむことが多いのですが、脇に近いところを持てたことで、相手の体幹にダイレクトに力をぶつけることができました。

 

二宮: 得意技での見事な一本でした。その後、ウルフさんは(男女)混合団体にも出場し、フランスとの決勝ではテディ・リネール選手に敗れ、惜しくも銀メダルに終わりました。リネール選手は100キロ超級で2大会(ロンドン、リオ)連続金メダルを獲得した“フランスの英雄”と呼ばれる選手です。実際に対戦した感想は?

ウルフ: リネール選手は、大きい体のわりに緻密な柔道をします。勝ち方をよく知っているなという印象でした。悔しい思いをしたので、もしパリ五輪でも団体に出場できれば、今度こそ金メダルを取りたいですね。

 

(詳しいインタビューは10月1日発売の『第三文明』2021年11月号をぜひご覧ください)

 

ウルフ・アロンプロフィール>

1996年、東京都葛飾区出身。父親はアメリカ出身で、母親は日本人。六歳のときに講道館の春日柔道クラブで柔道を始め、東海大学付属浦安高校から東海大学へ進学。2014年の世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得した。17年の世界選手権では、6試合中4試合を延長の末に制して金メダルを獲得。19年には全日本選手権(無差別級)で優勝した。今夏の東京五輪では、シドニー五輪(00年)の井上康生以来、5大会ぶりとなる100キロ級の金メダルを獲得。日本柔道における三冠(全日本選手権、世界選手権、五輪)を達成した。身長181センチ、得意技は大内刈りと内股。


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