海の向こうから嬉しいニュースが飛び込んできた。

 ベルギー1部ユニオン・サン=ジロワーズに所属する三笘薫が10月16日のスラン戦でハットトリックをマークして逆転勝利の立役者となったのだ。

 

 2点リードされ、味方もひとり退場した状況で後半スタートから登場。後半10分、左サイドからペナルティーエリア内でパスを受け取り、マークに来た相手を細かいタッチでけん制して動きを止めておいてからゴール右隅に流し込んだ。これが待望のリーグ初ゴールとなった。

 消沈していたチームに活気が戻って同点に追いつくと、31分には敵陣で味方がボールを奪った流れから相手の裏を取ってパスを呼び込み、再び右隅へ勝ち越しのゴールを決める。そしてハットトリックの期待が高まるなか終盤には最高のフィニッシュシーンが待っていた。

 左サイドをドリブルで駆け上がって相手を振り切り、スピードを上げて中へ切り込んでいく。対応に来た相手DFとGKの間を通して今度は左隅に流し込むコントロールショットでトドメを刺した。

 アウトサイドを使った独特のリズムから繰り出すドリブルに、相手は完全にお手上げ状態であった。細かく、かつ正確なタッチに安易に飛び込めないとなると、そこはもう三笘の術中にハマったも同然。相手の心を折ってしまうような、圧巻の“ハットトリックショー”であった。

 

 三笘には底知れぬスケールとオーラを感じる。

 なぜこうも簡単に相手を手玉に取れるかと言えば、“読ませない”からだ。今年2月、彼にリモートインタビューをした際にこう語っていた。

「相手に“コイツ、プレーの選択肢がない”と思われてしまったら、自信を持って飛び込まれることだって多くなります。でも自分の視野を確保して周りを分かってさえいれば、ボールを扱う時間が長くなるし、相手にも“コイツ、何やってくるんだろう”っていう雰囲気を出せる」

 どちらに行くのか、スピードを上げるのか緩めるのか、パスなのかシュートなのか。ゴールばかりでなく、アシストも多いのが川崎フロンターレ時代の三笘の特徴。ボールを持つ姿勢が良く、味方と相手を見て把握しているため、相手からすればやっかい極まりない。

 

 選択肢があっても、正しいチョイスをするのはそう簡単ではないはず。相手との駆け引きや味方の動きを見ながら、読みながら決断していかなければならない。

 昨年8月のセレッソ大阪戦で奪ったゴールの話に、彼の思考回路のヒントがあった。ペナルティーアーク付近からエリア内左に向かい斜めに抜けてくる小林悠にパスを送り、自分も左サイドから小林が作ったスペースに出てリターンをもらってニアを射抜くという、まさに相手を手玉に取ったゴールシーン。彼は「理想そのもの」と表現するとともに、こうも述べた。

「サッカーというのは本来、理想から外れていくスポーツだと思うんです。相手がどう動いてとか、自分のトラップがどうなってとか(理想とは)違ってきますから」

 なるほど、理想を求めつつもそのとおりにいかないことが前提としてある。だからこそ第一のプランがうまくいかなくとも、思考が止まることはない。無理やり理想をやり抜こうともしない。うまくいかなかったら次のプランに移るだけ。理想から外れていったとしても瞬時にプランを切り替えられる凄味が、この三笘にはある。

 

 A代表への期待値も膨らんでいる。

 先のオーストラリア戦において森保ジャパンはシステムを4-2-3-1からフロンターレ型とも言える4-3-3に変更。フロンターレ出身の田中碧、守田英正がスタメンに名を連ねたこともあり、連係面を考えても11月のアウェー2連戦(対ベトナム、オマーン)に招集される可能性は十分にあると言っていい。

 代表が活気づくには、田中に続くラッキーボーイの出現が待たれるところ。ベルギーで調子を上げている三笘がその筆頭候補である。


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