川崎フロンターレが2連覇を果たした。

 11月3日、ホームの等々力競技場で浦和レッズを迎えた一戦。1-1で引き分け、2位の横浜F・マリノスが敗れたために昨年と同様に4試合を残しての“最速タイ”で頂点に輝いた。昨年を上回る勝ち点「85」をマーク。中村憲剛が引退し、守田英正が海外に渡った今シーズン、夏場に主力の田中碧、三笘薫が欧州移籍に踏み切り、ケガ人が相次ぐ緊急事態もあった。それでも現有戦力でやりくりしつつ、3連続逆転勝利を収めるなどしたたかに、かつ我慢強く勝利を積み上げていった。敗戦はわずかに1。就任5年目でJ1史上最多となる4度目の優勝監督となった鬼木達監督のマネジメントは見事の一言に尽きる。

 この日、目を引いたのが脇坂泰斗、旗手怜央、橘田健人の中盤3枚。実にいい働きをしていた。動きの質も、量も、まさにフロンターレのスタイルの動力源。アンカーで覚醒しつつあるルーキーの橘田は安定感も躍動感もあり、今後目が離せそうにない。

 フロンターレの1年分のエッセンスが詰まった試合ではあった。ただマンオブザマッチを選ぶとしたら、それは浦和レッズのほうにいた。背番号2、日本代表の酒井宏樹である。

 

 “別格”だった。

 後半44分、左サイドから中に入ってきた伊藤敦樹のシュートはチョン・ソンリョンに弾かれたものの、酒井が奪い取って右足で押し込んでいる。ただゴールシーン以上に、攻守にわたって違いを見せつけたと言っていい。

 攻めてはワンツーから裏を取ってグラウンダーのクロスを送り、守っては対面のマルシーニョに裏を取らせない。競り合いには負けない、1対1ではやられない。フロンターレが流れからゴールを奪えなかったのも、酒井のニラミが効いていた。

 自分のサイドから良い形でクロスを上げさせないことももちろんだが、逆サイドからチャンスをつくられても自分のサイドをしっかりとケアするのが彼である。これはマルセイユ時代に培ってきたものだ。

 そのこだわりについて2018年のロシアワールドカップ後にこう聞いたことがある。

「マルセイユの守備のやり方として逆サイドから上がってくる人には必ずつかなきゃいけない。そして絶対に離さない。ディフェンスラインというのはハプニングに弱いと思うんです。失点シーンでカウンターが多いのは、(ボールを)取られるべきじゃないところで奪われるからピンチになる。逆に、決まったタイミングで上げてくるボールに対しては返せるんですよ」

 ハプニングが起こってもゴールを奪われないように注意を払い、対処する。そのコンプリート感が今の酒井にはある。

 

 先の東京オリンピックでは、世界を相手に堅守を誇れたのも彼の存在があったからこそ。準決勝で対戦したスペイン相手にも、延長後半に許したアセンシオの一発までよく耐えた。森保一監督がモットーとする「いい守備からいい攻撃を」のベースを担い、指揮官からの信頼も非常に大きいと感じた。

 大会後は蓄積した疲労もあったのか、9月のカタールワールドカップ・アジア最終予選はオマーンに0-1で敗れた後に途中離脱している。浦和レッズに移籍して環境の変化もあってコンディション不良が懸念されたものの、ここに来て随分と調子が上がってきた印象を受ける。直近に控える対ベトナム、オマーンのアウェー2連戦を考えると頼もしい限りだ。

 

 31歳、心身ともに脂が乗っている。

 欧州ではハノーファー、マルセイユでプレーしているが、特に後者においては2018~19年シーズン、サポーター投票で選出されるクラブ年間MVPに輝くなど活躍が目立った。ここで得た自信と経験がバックボーンにある。

 今回の東京オリンピック前にも話を聞ける機会があった。

「精神的な部分で経験値を得たからこそ、技術的にも安定したと思います。たとえ追い込まれた状況であってもミスをしなくなったというのはあります。過信してはいないですけど、ここまではできるという最低限の自信は持つことができているし、それはフランスで5年間にわたってプレーしてきたからなのかなとは感じています」

 J1で別格ぶりを漂わせるフロンターレに最後、勝利を与えなかったところに酒井宏樹の別格ぶりを感じないではいられなかった。


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