伊藤数子: 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、テレワークを導入する企業も増えました。御社はそれ以前から、いち早くテレワークを導入されていたそうですね。

星野晃一郎: 本格的にテレワークを実施したのは2008年です。産休を終えた女性社員から「仕事に戻りたい」と言われたことがきっかけでした。彼女が子育てをしながら、自宅で業務ができるように在宅勤務制度をスタートさせました。それより20年以上前の1980年代後半に、ある会社の工場のシステムトラブルを解決するため、私を含め一部の社員が滋賀県の工場まで行って半年ほど泊まり込みをしたんです。滋賀から弊社の東京メンバーと遠隔でやり取りしながら、プロジェクトを遂行した。その時の経験から、オフィスを離れていても仕事はできるという手応えは感じていたんです。

 

二宮清純: 在宅勤務制度は、全社員が利用できるものですか?

星野: 当初は育児・介護目的のみに利用できるものでしたが、2011年に誰もが在宅勤務が可能な制度に改定しました。

 

伊藤: 早いですね。同年にはボランティア休暇制度を設けたそうですね。その年3月に起きた東日本大震災がきっかけだと伺いました。

星野: 被災地の宮城県東松島市出身の社員がいたこともあり、同市に社用車を寄付したり、現地にボランティアを派遣したりしたんです。この時にボランティア休暇の必要性を感じ、弊社では社員が休暇を取得しやすいようにと制度を設けました。現在は年間10日間取得でき、そのうちの5日間が有給休暇となっています。

 

二宮: その点は星野さんが重視する「ライフ・ワーク・バランス」という考えに基づいているのでしょうか?

星野: そうですね。我々は「時間は人生のために」という企業理念を掲げています。ICTを使って生み出した時間で、豊かな人生を過ごすことが、社員一人ひとりの成長に繋がると思っていますし、それが会社の利益にもなると考えています。2012年に、あるIT企業を勤務地での都合で退社した人から「御社で働きたい。ついては故郷の徳島にサテライトオフィスをつくって、そこで働かせて欲しい」と直談判されたことがきっかけで、徳島市内にサテライトオフィスを設置しました。その後も弊社と縁があった人たちが採用できるように徳島県神山町、伊勢崎、高知、栃木などにもサテライトオフィスを設置してきました。ダンクソフトでは、社員それぞれが希望するライフスタイルに応じた働き方を提供することができていると思っています。

 

 まちのコミュニティを活性化

 

伊藤: その先進的で多様な考えが評価され、「ダイバーシティ経営企業100選」「テレワーク先駆者百選」「攻めのIT経営中小企業百選」などを受賞しました。サテライトオフィス設置によって、その地域の活性化を図る狙いもあるのでしょうか?

星野: もちろんです。私は東京の下町生まれですが、小さい時から地域のコミュニティというものをあまり体験したことがなかった。徳島に行った時、特に地方はコミュニティの存在がいかに大きいかと気付かされました。しかし過疎化が進んでいる地方では自治会を結成することすらままならない。私たちがサテライトオフィスを設置することで、多様な生き方、働き方を提示したいと考えています。サテライトオフィスの実証実験として、設置地域での中高生向けのテレワーク体験ワークショップも行いました。東京オフィスからオンラインでWEBデザインを指導しました。参加してくれた生徒たちには地元企業に就かなくても地元で働ける可能性、テレワークのメリットを実感してもらえたと思います。

 

二宮: それが過疎化を防ぐ一手となると?

星野: はい。地域活性化のためには、そのまちで暮らす人と交流を増やしていくことも必要です。阿南工業高等専門学校と、地方創生のための人材育成を目指す「共創PROJECT」を進めています。阿南高専の一部をサテライトオフィスとして利用し、多様なメンバーとの対話で地域の課題解決や共生社会実現するために取り組んでいます。ビジネスにおいても人と人との関係が重要です。多様な人間が出会い、実践の場で対話を通して互いに学び合う「コ・ラーニング」が大事になっていきます。そこでカギとなるのがデジタルテクロノジーだと思っています。

 

二宮: デジタルテクロノジーをうまく利用することで、共生社会実現が達成できると?

星野: そうですね。デジタルテクノジーは21世紀になって通信環境が整備され、コミュニケーションに関するツールがたくさん生まれました。今やオンラインで、直接会ったことのない人とも仕事ができるし、会わなくても必要な情報のやり取りができる。テレワークを推進する企業が増えていくことで、地方の過疎化を防ぐだけでなく、通勤が困難だった障がいのある人も仕事に就きやすくなるメリットがあります。これまで“できない”と障壁になっていたことも、デジタルテクロノジーによって超えていけると感じています。多様な人々との対話を通じ、成長し合える機会を創出できる。私たちはデジタルテクロノジーを通じて、共生社会を実現していきたいと思っています。

 

(おわり)

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星野晃一郎(ほしの・こういちろう)プロフィール>

株式会社ダンクソフト代表取締役社長。1956年、東京都出身。1983年7月、株式会社デュアルシステム(現・株式会社ダンクソフト)入社。1986年9月、同社の代表取締役就任。また一般社団法人日本ニュービジネス協議会 バザールバザール推進リーダー、株式会社中央エフエム社外取締役、日本パエリア協会理事、総務省地域情報化アドバイザー、徳島県集落再生委員会委員などを務めている。ICTを活用したコミュニティ構築に向け、様々な活動を行っている。またボランティアとして、サッカーの2002年日韓W杯、今年の東京オリンピック・パラリンピックに参加した。

 

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