株式会社ダンクソフト星野晃一郎代表取締役社長は、今年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会にボランティアとして参加した。同社でボランティア休暇制度を導入するなど社員のボランティア活動も推奨している。またWebサイトやアプリケーションのコンサルティング、制作、構築などを行うダンクソフトは、早くからテレワークを導入しており、これまで「ダイバーシティ経営企業100選」、「テレワーク推進賞(優秀賞)」、「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)」、「テレワーク先駆者百選」などを受賞してきた。「ライフ・ワーク・バランス」を重視する星野社長に話を訊いた。

 

伊藤数子: 今回のゲスト星野さんとは、東京パラリンピックのゴールボールを取材した際に出会いました。星野さんは会場の幕張メッセで大会ボランティアとして活躍されていたんです。その活躍ぶりは「挑戦者たち」のサイト(~東京パラリンピックの現場から~ ボランティアのみなさんの力)でもご紹介させていただきました。

星野晃一郎: その節はありがとうございました。ボランティアの仲間たちも、とても喜んでいましたよ。

 

二宮清純: 東京大会のボランティアには、どういうきっかけで応募されたんですか?

星野: 前回の東京オリンピック・パラリンピックの時は8歳でした。せっかく生まれ育った東京で開催されますし、過去に世界規模で行われるスポーツ大会のボランティアの経験もあったので応募しました。

 

二宮: 過去の経験とは?

星野: 2002年に日本と韓国で共催されたサッカーのワールドカップです。決勝が行われた日に会場となった横浜国際総合競技場のメディアセンターでメディア対応を任されました。その時の経験が楽しかったので、今回もぜひ参加したいと思っていました

 

伊藤: 日本で行われた2つの大きな国際スポーツ大会に関わられて、デジタルの進化と浸透ぶりに驚かれたそうですね。

星野: そうですね。ワールドカップの頃は既にインターネットがありましたが通信速度は今回の100万分の1程度です。当時はまだ複合機がメディアセンターに並び、手書きの原稿をFAXで送っている人もいました。容量の大きな写真データは、メールで送るにもかなり時間がかかっていました。それが今は原稿も写真もインターネットで処理するなど全てがスピーディー。また今回のボランティアチームの連絡や情報共有に使っていたのは、ビジネス・チャット・ツールです。隔世の感がありましたね。

 

二宮: 今回の東京大会では、どのような業務を?

星野: 私たちはメディアセンターの維持業務とプレス会場管理。今大会は無観客でしたから、取材に来たメディアの方々の対応が主でした。

 

二宮: コロナ禍でのボランティア活動、いろいろとご苦労も多かったのでは?

星野: 特にパラリンピックに関しては、ボランティアチームの人数が想定の半分以下だった。その状況で業務をこなさなければなりません。もちろん大変でしたが、IPCも私たちの大変さを理解していましたし、プレスの皆さんも協力的でした。おもてなしの心や助け合いの精神といった日本人の国民性が出たかな、と。海外メディアの方からは、そのおもてなしが評価されたのか、「素晴らしい」と褒めていただきました。

 

伊藤: 私たち取材する側にも、積極的に声を掛けてくださいましたし、皆さんの温かい雰囲気が伝わってきました。

星野: お互いに大変な中、頑張っているという仲間意識もありましたね。

 

 支え合い、助け合う

 

伊藤: ボランティアチームには、御社が掲げる共に学び合うという“コ・ラーニング”の姿勢があったとおっしゃっていましたね。

星野: “コ・ラーニング”とは、共に学び合う、共同学習のこと。それはビジネスの場でも大事なことで、対話と協働を重視する弊社がここ数年目指してきた姿です。国際大会のボランティアは老若男女、国籍も問わず集まった人たちが協力していかなければいけません。人が少ない状況ですから“マニュアル通りやればいい”というわけではありませんでしたし、自分で考えて動いていく必要がありました。状況に応じて柔軟な判断をしていく。少なくとも私のチームでは、対話を通して互いに学び合いながら業務を遂行する。すなわち“コ・ラーニング”の意識が生まれていると実感できました。今回のボランティアを通じ、いろいろな人と出会うことができ、とても楽しかったですね。

 

二宮: 大会を通じた出会いや気付きが社会を変えていくきっかけになってほしいですね。支え合う、助け合うという気持ちや、共生に必要なノウハウは、東京オリンピック・パラリンピックのレガシーとして社会に蓄積されていくべきだと思うんです。

星野: おっしゃる通りですね。Jリーグ、Bリーグなどのプロスポーツでもボランティアは活躍されています。支え合う、助け合うという姿勢は、オリパラだけでなくスポーツボランティアを経験した人たちも学ぶことができるはずです。そこで得られたものが、これから先、たとえば過疎化が進む地方が再生していくためには、大きな資産になるのではないでしょうか。

 

二宮: 来年は関西で、生涯スポーツの祭典「ワールドマスターズゲームズ」が開催されます。関係者に話を聞くと、ボランティアの応募が予想以上のペースできていると。その背景に東京大会でボランティアを経験した人の“オリパラロス”があるというんです。

星野: オリパラのボランティア用サイトにPRが上がっていましたね。なかなか得難い経験でしたし、私も実際に関わってみて楽しかった。確かに“ロス”になる方はいると思いますね。今回はコロナ禍で打ち上げができないのが残念ですね。数人とオンライン飲み会はしましたが、落ち着いたら会って、思い出やこれからのことを語り合いたいですね。

 

伊藤: ボランティア休暇制度を導入するなど、企業としてもボランティア活動に積極的です。ビジネスとボランティアは全く別の物、あるいはつながっているもの。どのように捉えていますか?

星野: ビジネスは利益だけを追求するとは限りません。時にボランティア的なことをしなくてはいけない。その感覚を持っていないと、継続できないと思うんです。特に“コ・ラーニング”のようないろいろな人たちと学びながら新しいアイディアを得ていくことは、今後、より重要になってくる。多様性の時代になっていますから、人や物事にどう関わっていくか、対話をしていくのか。ビジネスに限らず誰もが持っていかないといけない時代だと思います。昔の日本は均一主義だった。今はどれだけバリエーションをつくれるか、視点を持てるかが重要な価値だと思います。

 

(後編につづく)

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星野晃一郎(ほしの・こういちろう)プロフィール>

株式会社ダンクソフト代表取締役社長。1956年、東京都出身。1983年7月、株式会社デュアルシステム(現・株式会社ダンクソフト)入社。1986年9月、同社の代表取締役就任。また一般社団法人日本ニュービジネス協議会 バザールバザール推進リーダー、株式会社中央エフエム社外取締役、日本パエリア協会理事、総務省地域情報化アドバイザー、徳島県集落再生委員会委員などを務めている。ICTを活用したコミュニティ構築に向け、様々な活動を行っている。またボランティアとして、サッカーの2002年日韓W杯、今年の東京オリンピック・パラリンピックに参加した。

 

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