サッカー日本代表はカタールワールドカップアジア最終予選で苦戦を強いられていますね。今月行われたサウジアラビア代表戦は0-1の敗戦。続くホームで行われたオーストラリア代表戦では2-1と勝利を収めました。今月の代表では、変化が見られましたね。以前から感じていた課題も含め、語りましょう。

 

 まずはサウジアラビア戦について。後半26分にMF柴崎岳(レガネス)のバックパスをインターセプトされ、失点を喫しました。確かにバックパスを選択した柴崎の判断ミスが原因ではあると思いますが、このシーンを見ると柴崎はタッチライン右サイドに追い込まれ、選択肢があまりにも少なかった。DF吉田麻也(サンプドリア)には相手FWがケアに来ていた。だから柴崎は吉田のやや後方のスペースにパスを出したのでしょう。ただ、ここで横のパスコースも作ってあげるべきだったと思います。

 

 僕がここ最近、代表戦を見て感じるのは縦と横の関係性です。サポートやフォローの角度、マークの受け渡し……。もっとオートマチックにポジションを取れるようになってほしいものですね。

 

 縦と横の関係性の悪さは勝利したオーストラリア戦でも見受けられました。失点につながったFKを与えた場面です。4-3-3を採用していた日本。相手に日本の左サイドでフリーな状態でボールを持たれると、DF長友佑都(FC東京)が自分のマークを捨てて、ボールホルダーに猛然とプレスをかけに行きました。

 

 結果として元々、長友がマークしていた選手にパスを出され、サイドからクロスを許し、ファウルにつながりました。あの時、長友がプレスに行ったのであれば、センターバックの冨安健洋(アーセナル)と吉田がひとつずつマークを受け渡せれば状況は変わっていたでしょう。もしくは、プレスに行きかけた長友に「待て」「行くな」と指示を出せていれば……。

 

 僕が言いたいのは、持ち場を離れてプレスに行った際の対処をどうするのか。ボールホルダーにはあえてプレスにいかず、リトリートすべきなのか。これをはっきりさせた方がいい、ということです。4バックの顔ぶれは随分前から同じですが、目の前にサイドハーフが居る4-2-3-1とウイングの扱いになる4-3-3では距離感の違いが生じます。ケースごとの守備をどうするか、もっと詰めるべきでしょう。

 

 さて、この試合は東京五輪世代のMF田中碧(デュッセルドルフ)がアジア予選初スタメンで出場し、見事先制点を決めました。11月のベトナム代表とオマーン代表との試合は田中の起用が予想されます。ぜひ頑張って欲しいですが、世界を相手にする場合は途中からゲームメイクの流れを変えるようなポイント、ポイントでの起用も面白いのではないかと思います。ゲームメイカーを変えると配球のリズムが大きく変わります。柴崎と違ったピースを得たのは大きな収穫です。インサイドハーフはMF守田正英(サンタクララ)もレベルの高いプレーを見せてくれました。3人で2つの椅子を争えば日本のレベルを上がることでしょう。

 

 代表だけでなくJリーグもヒートアップしてきましたね。特にアジアチャンピオンズリーグプレーオフ出場権争い(3位争い)が面白い。僕の古巣の鹿島アントラーズは勝ち点56の6位。3位のヴィッセル神戸の勝ち点が61。残り5節、まだチャンスはあると思います。注目は現在13得点を記録しているFW上田綺世です。第33節のFC東京戦でもゴールを奪ってくれました。彼がどれだけアントラーズの攻撃を牽引できるかで、チームの浮き沈みが左右されるでしょう。今後の活躍次第では代表入りもできそうな逸材です。ぜひ、後輩たちには頑張ってもらいたいものですね。

 

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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