(写真:5年ぶりの日本リーグ決勝トーナメント進出。キャプテン就任後は初)

 日本女子ソフトボールリーグは11月6日からの2日間、福島県営あづま球場で決勝トーナメントを行う。注目は昨季9位から3位にジャンプアップし、5年ぶりの決勝トーナメントに出場する日立サンディーバだ。東京オリンピックで金メダルを獲得した日本代表メンバーで、日立のキャプテンを務める清原奈侑に話を聞いた。

 

――個人としてもチームとしても、5年ぶりの決勝トーナメント進出です。

清原奈侑: 毎年、「日本一になろう」と言いづけてきた中、やっとそこに手が届く位置にまでこれました。支えてくださった方々に、やっと結果というかたちで恩返しができる。

 

――昨季9位から、今季は3位と浮上した理由は?

清原: 昨年のチームから大幅に選手が抜け、4人の移籍選手、5人の新人選手が加わりましたチーム内の雰囲気がガラッと変わりました。監督が代わり、選手の自主性を重んじるようになった。それが今のチームに合ったのかなと思います。

 

――キャプテンとして苦労した点は?

清原: 今までは発言に気を遣っていましたが、チームの中でも年長になった。選手の入れ替わりにより、チームのことを知らない選手も増えました。自分自身がしっかり丁寧に伝えていかなければ、わかってもらえない。そのための言葉選びは難しかったですね。

 

――山田恵里選手らベテラン選手がチームを抜けたことで、今まで以上に責任感が増したと?

清原: そうですね。これまでとは全然違いました。今まで以上にプレーや姿勢で引っ張っていかないと、ついてきてくれない。その作業は大変でしたが、他の選手やスタッフの方々が支えてくれたことも大きかったです。

 

――今季新たに取り組んだことはありますか?

清原: 以前のウォーミングアップは選手がバラバラに始めていたのですが、全員で一体感を持って取り組むようになりました。今年は練習中から1球1球に対し、厳しく言うようにしました。ひとつのアウトを取れたとしても、それで良かったのかと追求していくようになった。ひとつのプレーに対しても掘り下げて話すようにしました。

 

(写真:研究熱心な性格。日立に入団後、「よりリードを研究するようになりました」と配球も変わったという)

――躍進の手応えを掴んだ試合は?

清原: Honda Revertaとの開幕戦ですね。試合には敗れましたが、初回に点を取り、今年は打線も力を付けたと実感できました。3年目の坂本実桜も5回までノーヒットピッチング。投打で手応えを得られた試合でした。最終回に6点取られて逆転負けしたことで、最後の最後まで気を抜いてはいけないと痛感した。この試合が今年のすべてを物語っていたと思います。

 

――チーム防御率は昨季の2点台(2.94)から1点台(1.25)に改善されました。今季15勝中12勝が完封勝ちです。全試合でマスクを被った清原選手はどう見ていますか?

清原: ピッチャーの坂本実桜、ケイラニ・リケッツ、田内愛絵里らが自分の配球に沿って、投げてくれたのが理由のひとつです。昨年1年間の悔しさをバネに、それぞれが練習に取り組んできたことが成長につながり、今年の結果に表れたのかなと思っています。

 

――ピッチャー陣で言えば、単純にコントロールが改善されたということでしょうか?

清原: それだけではありません。今までは“ここに投げて”と要求する私のリードに対し、“そこに投げればいいんですね”という感じでピッチャーたちは投げていた。それが今では、なぜそのコースにそのボールを要求するのかまでをも理解して投げるようになった。ピッチャー陣とはたくさんの会話をしてきたことで、相互理解が深まってきたと感じています。

 

――リードでの変化は?

清原: 昨季までは“絶対ここに投げてくれ”という配球をしていました。今年は選択肢をひとつしか持たないのではなく、もし要求したボールに対し、ピッチャーが投げにくそうなら、違う選択ができる配球を心がけました。

 

――リードの引き出しを増やしたわけですね。

清原: そうです。今までは年下や同世代のピッチャーと組むことが多かった。それが日本代表で年上のピッチャーとバッテリーを組む機会が増えたことでいろいろなピッチャーの考え方を聞き、自分の引き出しが広がったと思っています。

 

 チームの起爆剤に

 

――東京オリンピックで日本代表は金メダルを獲得しましたが、清原選手は出場機会には巡れませんでした。

清原: 私個人としては悔しい大会になりました。ただその分、得たものも多かった。私のソフトボール人生において、あれほど試合に出られなかったことはありません。試合に出られないなりに、どうチームに貢献していくかを考える大会でもありました。また、その経験があったからこそ、“自分はもっとできる”ということをリーグで証明したいと思っています。

 

――東京オリンピックを経験して迎えた後半戦、チームに対する向き合い方も変わったのでしょうか?

清原: 前半戦は“目の前の試合に勝つ”との思いで臨んでいました。後半戦からは、まわりの選手がベンチでどういう働きをしているかという部分まで感じ取れるようになったと思います。

 

――リケッツ投手、坂本投手、田内投手の三本柱はそれぞれどんな特徴がありますか?

清原: リケッツは左ピッチャー特有のボールを投げる。左バッターがアジャストして打つのは難しいと感じています。坂本は1球1球考えて投げられる。またマウンド度胸があり、ピンチの時にギアが上げられる投手です。田内は打者の左右を苦にしない左ピッチャー。テンポが良く試合をつくるのが上手いと思います。

 

――ピッチャーに対しては、それぞれ接し方も変えていますか?

清原: ピッチャーの性格によって、声の掛け方は結構変えていますね。試合までの調整を進めていく際の声掛けも違います。リードしている時はバッターにも聞こえるような声掛けをしています。

 

――バッターとの駆け引きもありますよね。

清原: そうですね。ピッチャーよりもバッターに直接声を掛けるような感じでやっています。

 

(写真:打撃には「あまり自信がない」と言うが、18年には3割7分3厘をマークした)

――チームでは中軸を打つこともありますが、バッティングに対するこだわりは?

清原: バッティングにはあまり自信がありません。チャンスで打つことを意識し、まわりにいいバッターが多いので、つなぐバッティングを心がけています。

 

――理想とするキャッチャー像は?

清原: 阪神の矢野耀大監督、元東京ヤクルトの古田敦也さんの現役時代のリードを参考にしています。野村克也さんが大好きなので、野村さんの教えを受けたキャッチャーの配球をよく見ますね。あとはプロ野球中継の解説を聞いて勉強することもあります。元中日の谷繁元信さんや、巨人の桑田真澄コーチの解説が好きでしたね。

 

――「野村ID野球」のようにデータ収集も大事にしているわけですね。

清原: そうですね。日立に入ってから試合までの1週間は暇さえあれば、映像を見て研究していますね。高校時代は監督から指示された配球をノートに書いていましたし、大学時代から自分でリードをするようになり、自分の配球をメモしていました。リードをするのはとても楽しく、それを苦にしたことは、ほとんどなかったです。

 

――さて、6日にスタートする決勝トーナメント初戦はリーグ4位の豊田自動織機シャイニングベガと同5位のHondaの勝者と戦います。

清原: どちらが上がってきても自分たちの試合をするだけ。どちらが対戦してもいいように準備はしています。準備力は他のチームに負けないと思っています。相手チームはダブルヘッダー。ピッチャーも疲れていると思うので、早めに打ち崩して、自分たちの展開に持っていきたい。プレッシャーもなく“早く試合がしたい”というワクワク感が強いですね。

 

――今年のチームの強みは?

清原: ピッチャー陣が安定していること。打線はひとりが塁に出れば、一気に爆発する力がある。私自身が、その起爆剤になれたらいいと思っています。

 

清原奈侑(きよはら・なゆ)プロフィール>

1991年5月1日、大阪府生まれ。小学1年で野球を始め、中学からはソフトボール部に所属した。京都西山高校、園田学園女子大学を経て、2014年、日立サンディーバに入団。1年目からレギュラーの座を掴み、マスクを被った。18年には打率3割7分3厘、2本塁打、7打点でベストナイン(捕手)を受賞。19年からは主将を任されている。代表歴は15年TAP-B代表として東アジアカップ優勝を経験。TAP-A代表を経て、17年度にTOP代表強化指定選手に初選出された。日本が金メダルを獲得した今年の東京オリンピックメンバー。捕手。右投右打。身長165cm。

 

(写真:日立サンディーバ提供)

 

 BS11では決勝トーナメントの模様を2夜続けてオンエア。6日(土)20時はビックカメラ高崎BEE QUEENvs.トヨタ自動車レッドテリアーズ戦、7日(日)19時は決勝戦を放送します。是非ご視聴ください。

放送内容は中止、または変更になる可能性がございます。


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