三笘薫が流れをガラリと変えた。

 マスカットで臨んだカタールワールドカップ・アジア最終予選、アウェーのオマーン代表戦。森保一監督率いる日本代表は後半開始からA代表デビューとなる三笘の投入を合図に攻勢に出た。その三笘は左サイドで何度もドリブル突破を試みて相手にストレスを与え続け、後半36分に彼のクロスボールを逆サイドの伊東純也が左足で押し込み、喉から手が出るほど欲しかった先制ゴールを奪った。結局この1点を守り切り、9月のホームゲームで敗れた相手に借りを返した。これで勝ち点12となり、中国代表と引き分けたオーストラリア代表と入れ替わってグループBの2位に浮上した。

 前半は極力リスクを冒さず、慎重な戦い方をしていた。日本もオマーンも勝ち点「1」ではなく「3」が必要なだけに、もどかしさを残した。前回の対戦と同様にサイドのスペースは使えても、固められている中を崩せない。得点のにおいがしたのは左サイドバック、長友佑都のクロスにファーでフリーになっていた伊東が合わせたシーンくらい。ただ一方でオマーンの攻撃にニラミを利かせていて、いつ勝負を懸けていくかがポイントだった。

〝一の矢〟三笘の投入が、その合図となった。システムも4-3-3から4-2―3―1にしてアタッカーを一枚増やした。いつもの森保監督よりも早めに動いた印象を受けた。このメッセージが選手に伝わったからこそ、ギアが入った感はある。

 三笘、2戦連発となった伊東の活躍あってこその勝利。ただ個人的に“裏MVP”として推したいのが、長友と交代して後半途中からプレーした中山雄太だ。彼のボール奪取と相手を惑わせたパスがあったからこそ、あの決勝点が生まれたのだから。

 

 チャンスメークへの強い意欲を持ってピッチに入ってきた。

 ゴールシーンには伏線があった。

 後半34分、中山はボールを持ち出して大迫勇也に当てて自分も前に向かう。大迫のクロスを伊東が落とし、中山が利き足とは逆の右足でシュート。大きく外れてしまったものの、左サイドの崩しからシュートまで至った。

 2分後に、そのときは訪れた。

 チームは高い位置でボールを回収して左に展開。中山は左サイドに張る三笘にパスを送り、相手に短くクリアされたものの1対1でボールをからめ取る。

 顔を上げると中には4人いた。

 中にパスを送ると見せかけて、外側にいた三笘を使う。相手の対応を遅らせたことによってゴールにつながったのだ。ボール奪取からパスまでの流れは、実に冷静かつ見事であった。

 

 言うまでもなく彼も東京オリンピックで成長を遂げた一人である。

 オリンピックでは6試合中5試合に左サイドバックで先発。安定した守備力と効果的な配球力は、激しい戦いを通じて一段階も二段階も引き上がっていった。サイドバック、ボランチ、センターバックと複数のポジションを高いレベルでこなせるユーティリティータイプではあるものの、大舞台を経てサイドバック色が一層強くなった。

 オーバーエイジ枠で参加した酒井宏樹から多くのことを学んだことも大きかったという。

 大会後にインタビューした際、彼はこう語ってくれた。

「僕自身、東京オリンピックでのパフォーマンスの裏付けは酒井選手あってこそだと思っています。試合のハーフタイムやそれ以外でも、質問攻めみたいな形でいろいろ教わりましたから。酒井選手も真摯に、丁寧に、それもすべてにおいて答えてくれました。

(サイドバックとして)何がセオリーで、じゃあこうなったときに何を捨てて何を選択しなきゃいけないのかという基準をそもそも持っていなかった。その正解というか、正解に近い場所で戦っている人を基準に置くことができました」

 相手との駆け引き、出ていくタイミング、スライド……落ちついてプレーできているのも、頭のなかできっと整理されているからなのだろう。攻撃に出るときは迫力を持って。酒井からの学びが大事な局面で活かされた。

 

 アウェー2連戦で勝ち点6を積み上げて2位に上昇したとはいえ、崖っぷちは続く。しかしながら田中碧、三笘、そして中山と東京オリンピック世代の台頭は、チーム内の競争を促すとともに底上げにつながる。今回は出番がなかったが、現在J得点王の前田大然や川崎フロンターレの2連覇に貢献した旗手怜央ら楽しみな若手が続々と控えている。

 森保ジャパンが攻撃面でまだまだ課題を残しているのは明らかだ。ただ、東京オリンピック世代を含めた若手との融合がカタチになりつつあるのも事実。マスカットの地で見せたのは後退ではなく、前進だったと受け止めている。


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