(写真:堀米雄斗選手を肩車する早川氏。堀米選手のアメリカ行きの手助けをした)

「僕らは順位を決めるためにやっているんじゃない」

 その言葉にハッとさせられた。

「できないことができるようになる瞬間を追求しているし、それができた仲間がいればたたえ合う。それだけのことなんです」

 そう語るのは、早川大輔氏。この夏、日本を沸かしてくれたスケートボード日本代表チームのヘッドコーチである。

 

 30年以上前、このスポーツに魅せられ人生を注いできた早川氏。家業を継ぐ計画も、西海岸で浴びた本場の空気感にぶっ飛んだ。それから様々な仕事を渡り歩いたが、その基本は「スケートボードをやるため」。まずこれがあり、その上でできる仕事を探すというプライオリティ。もちろん金銭的に苦労は続いたが、 スケートボードを続けられる喜びに勝るものははなかったという。 。そんな中で、彼を慕ってきた少年の中に東京五輪スケートボード・男子ストリート金メダリストの堀米雄斗選手がいて、新世代に夢を託す方向に舵を切っていった。

 

「スケートボードは痛いし大変です。あの高さから転んだら相当なものです。だからこそ体を鍛えていないと持たないし、夢がなければ継続することもできないです」。そう笑う早川氏のカラダは傷だらけだし、一見格闘家のような逞しい体形だ。あの華々しい技は、そんな地味な努力があって初めて成立する。だから憧れて始める人は多いけど、すぐに自身のできなさに嫌気がさし、辞めてしまう人も少なくないという。でもそれは、そのスポーツの深さも語っており、だからこそ世界中の子どもたちを魅了する。

 

(写真:ストリートカルチャーの中で長年生きてきたスケートボード。東京五輪から正式競技として採用された)

「スケートボードはカッコよくないと。それは技も当然ですがその生き方や立ち振る舞いも含めてね。僕たちはそれをいつも追い求めていました」

 しかしアンダーグラウンドでアウトロー、反社会的なイメージが付きまとってきたし、現在でも街中でトラブルがあるのも事実。「そんなイメージだけで広がってしまったけど、トップスケーターたちを見てくれれば分かります。このスポーツはカッコいいライフスタイルが大切だし、それが反社会とは相反するもの。五輪はそんな側面をアピールする大切な機会でした」と東京五輪を評価する。

 

 だが、西海岸の自由な雰囲気で育った、このスポーツが五輪という枠にはまることに心配はなかったのか。

「業界の中で『五輪に飲み込まれるとスケートボードの本質が変わってしまう』という杞憂の声がかなりありましたし、僕自身にもその心配がなかったわけではありません。しかし、このスポーツをもう一段階押し上げるには大切だと思ったし、チャンスであるとも。選手たちも頑張ってくれたおかげで、国内の状況を変えることができました」

 

 伝えていきたい魅力

 

 そして、こうした選手たちの活躍は、子どもたちを大きく刺激し、全国で熱心に取り組む姿が見られるという。「今はSNSで、凄い技がアッと追う間に広がる。僕たちもSNSで新しい選手を見つけることも少なくないです。明らかにSNSがスケートボードの広がりを変えましたね」。だが、急速な広がりとレベルアップに憂うこともあるようだ。

 

(写真:30年以上競技に関わり、今後も「スケートボードのスピリットを伝えていきたい」と語る早川氏)

 スケートボードの「カッコよく楽しむ」というメンタリティが伝わり切っていないという。ただハイレベルな技を争うことだけがスケートボードではない。スケートボードとどう向き合っていくのかを伝える人が少ないとも嘆く。「五輪のおかげで競技レベルは上がっていく。今回のメダリストたちを超えるような子どもたちもすでに出てきているので楽しみである一方、ただスケートボードという競技をやっているだけになってしまう恐れもある。日本代表の選手がこうなってしまうと、スケートボードの文化は変わってしまうし、本当の愛好者からは競技としてのスケートボードは見切られてしまう」と危機感を露わにする。

 

「だから僕はそんなスケートボードのスピリットをきちんと伝えていきたい。上手い選手だからこそ、これが大切なんです」。そんな彼の教え子は、東京五輪のステージで、国や順位を超えお互いを称え合う姿で、スケートボードのカッコよさ、いやスポーツの原点を見せてくれた。順位はもちろん大切だが、それがすべてではない。大切なことは自身がそれぞれチャレンジし、それを素直に称え合う。失敗を恐れずチャレンジしていく姿こそが称えられるものであるということだ。

 

 この話を聞いていて、自分たちが関わるスポーツも大丈夫なのかと考えさせられる。五輪に入ったことで競技性だけに偏っていないか。本当の楽しみを伝えられているだろうか……。

 マイナースポーツは、五輪に招き入れられることで多くの人に見てもらい、その知名度は広がっていく。それぞれスポーツを普及拡大していきたい立場としてこんなに嬉しいことはない。しかし、その過程で本当に大切なことが希釈されていくとしたら……。
 これは五輪が悪いのではなく、それをいかに伝えていくかという競技の側にバトンがある。しかし、メディアも含め評価するのは結果ゆえに、それを追い求めているうちに本質がおざなりになってしまうことも……。今一度、自戒しなければならない。早川氏のピュアな目を見ていて少し恥ずかしくなった。

 

 今、全国的にスケートボート人口は拡大している。

 大きな分岐点を迎えた中でどんなスポーツになっていくのか。関係者の模索と挑戦は続いていく。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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