第240回「五輪大改革のススメ」
北京冬季五輪まで50日を切ったところで、米国の外交的ボイコットに端を発し、何やらきな臭い雰囲気になってきている。さらにオミクロン株で、国際大会があちこちで中止になり、選考会さえできない競技も。東京大会より楽観視されていた状況は予断を許さない。
だからこそ、ここは思い切った変革に乗り出すべきと私は言いたい。
原点であるスポーツ総合国際大会であり、シンプルに世界連帯の機会に戻すべきであると。
1980年のロサンゼルス大会から五輪は大金を集め、商業化が進み、それに値するような派手な演出がスタンダードになっていった。時代が求めていたところもあり、それはそれで正しい選択であったのかもしれない。しかしその傾向は加速し、大会が本来の目的よりも演出やスポンサー、TVの方を向いてしまっている状況。また時代は変わり、気候変動問題など環境への意識が重要視されるようになった。その中で求められるものは、間違いなく1980年以降の派手な大会と変わってきているはず。開催希望都市が減っているのもその表れの一つだろう。
ならば変わればいい。
派手な演出はいらない。競技にフォーカスした、持続可能な大会にしようではないか。
外交的ボイコット?
いやいや、そもそも政治の場ではないので、全ての国の政治家にボイコットしていただきましょう。
感染症や人権問題など向き合うべき重要な事項ではあるが、この機会に問題に対応すると同時に、開催の方向も変えてしまってはどうだろう。
コロナはきっとIOCに変革を求めているのだと思えて仕方がない。
夏から冬への移行
さらに、冬季大会と夏季大会では規模の偏りが大きすぎるという問題がある。
東京大会では33競技339種目が行われ、205の国・地域と難民選手団から約11000人が参加した。
それに対し、前回の平昌冬季大会では、7競技102種目が行われ、92の国・地域、約2900人の参加。同じ五輪とは思えない差がある。
もちろん人数や種目だけが評価基準ではないが、それが注目度の低さにつながり、視聴率やスポンサー収益に関わってくるのは当然。また大会運営という見地でも、夏季は何とか種目を抑制し人数を絞りたい方向で、冬季は種目を増やして規模を大きくしたいという方向にある。つまりまったく逆の方にベクトルが向いているということだ。
ならば、夏季から冬季に種目を移動すればいいのではないか。たくさんあり過ぎて困っている人と少なくて困っている人がいるなら、あり過ぎの人から足りない人に譲るのが解決に近づくアプローチだろう。
橋本聖子東京大会組織委員会会長も「自分なら競技の分散化を目指す」と答えたように、夏季大会の肥大化を抑え、冬季大会の盛り上げに寄与するならどちらもハッピーで、win-winな措置ではないか。
例えば、バスケットボールやバレーボール、体操などは室内でやるので、冬季大会で実施しても全く問題がない。そもそも北米ではバスケットのシーズンは秋から冬なので、むしろメインシーズン中の開催で、NBAなどとバッティングするが、全体としてはスムーズだ。ホテルと競技会場が季節に左右されないのであれば、競技への影響もほとんどないと思われる。
また、マラソンなどはそもそも冬のスポーツ。雪などの影響は考慮する必要があるが、冬の大会で行う方がむしろ当たり前のようにも感じる。温暖化の進む現状で、北半球において真夏に開催される大会でマラソンを行う方が無理があるというもの。2030年札幌での冬季五輪では、最終日に東京でマラソンを実施すればいいのではないかと思うのだ。
何を変更するにしても、既定路線を変えることとなるので、反対も多いしハードルもあるだろう。
しかし、このまま続けていくことにも多くの課題が山積しているのもこれまた事実。
現実から目を背けることなく、この機会に思い切った改革を進めるべきではないだろうか。
現在の苦境は、五輪へ改革を迫っている。だからこそ進化するチャンスなのだと私には見えるのだが……。
白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)。