<この原稿は「てらす」2004年春号に掲載されたものです>

 

 北海道に“宇宙人”が上陸した。

 

 早くも彼が行くところ行くところ、人だかりの山ができている。

 

 男の名前は新庄剛志。

 

 天真爛漫な性格、意表をつく言動はスターとしての天分を存分に感じさせる。

 

「長崎で生まれ、福岡で育ち、大阪、ニューヨーク、サンフランシスコ、ニューヨーク……。次は北海道に住みます。背番号は1です。ファイターズの新庄をよろしくお願いします」

 

「これからはメジャーリーグでもセ・リーグでもない。パ・リーグの時代です」

 

 決してボキャブラリーが豊富なわけではないが言葉に“華”があり、そのニュアンスには“遊び”がある。こんな貴重な男をマスコミが放っておくわけがない。

 

「新庄を一面に持ってきただけで新聞が売れるんだからな。まだ一本もヒットを打っていないというのに……。まったく不思議な選手だよ」

 

 北海道のスポーツ新聞社に勤務する友人が、そう言って苦笑を浮かべていた。

 

 ファイターズは今季から札幌を本拠地とする。新しいチーム名は「北海道日本ハムファイターズ」だ。

 

 北海道のプロ野球ファンは8割方、巨人ファンである。ファイターズにも小笠原道大をはじめ素晴らしい選手はたくさんいるが、残念ながら、その人気は全国区ではない。

 

 球団は新庄をいわば“新しいチームの顔”として期待している。だから総額3億円もの先行投資を行ったのだ。

 

 こうした、いわばPR優先の北海道進出策には批判の声も聞かれるが、私は反対しない。むしろ時と場合によっては必要なことだと思う。

 

 Jリーグ元年を思い出して欲しい。「日本のリーグは“年金リーグ”」と外国のメディアに揶揄させるほど“昔の名前で出ています”的な外国人選手が話題を独占していた。ジーコ、リトバルスキー、リネカー……。とりわけ名古屋のリネカーは故障続きでチームの期待に応えることができず、2シーズンでわずか4ゴールしかあげることができなかった。「メキシコW杯の得点王」という看板が色褪せてみえた。

 

 しかし、リネカー見たさに瑞穂球技場には大勢のファンが詰めかけた。やがてにわかサッカーファンは熱心なサポーターとなり、諸外国のサッカーシーンにまで興味を持つようになった。

 

 リネカーはピッチの上では活躍できなかったが、ピッチの外では日本に多大な貢献をした。W杯の招致を巡り、日本か韓国かで揺れている時、「日本ほど安全な国はない。経済力もあり、やがてアジアのサッカーの中心地となろう」とヨーロッパのサッカー関係者に、日本の長所を説明して回ったのが彼だった。

 

 新庄がリネカー同様、プレーでの活躍は見込めないと言っているわけではない。打撃に波があるだろうが、あの守備力は広い札幌ドームを本拠地とするファイターズ投手陣にとって、これ以上ない味方となるはずだ。

 

 新庄効果によって観客動員数がアップすれば、選手たちの励みも増す。熱狂的な声援がチームを後押しするのは甲子園でのタイガースや福岡ドームでのホークスが証明している。

 

 甲子園、福岡ドーム、そして札幌ドーム……。“北の都”が“ベースボールの都”と化す上で、千両役者・新庄剛志の摩訶不思議な存在感は欠かせない。


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