モンゴルへ帰るのか、帰らないのか。横綱・朝青龍の年末帰国騒動は、高砂親方の説得もあり、どうやら「国内年越し」の線で落ち着きそうだ。
 初場所は1月13日から始まる。その5日前には横審による稽古総見がある。約5カ月ものブランクを考えれば、正月返上で体づくりに励むのが筋だ。

 それ以上に横綱は「公人」である。子どもの顔が見たいという気も分からないではないが、処分明けの今はプライベートを優先させるべきではない。日本に残り、初場所に備えたほうが賢明だ。
 しかしマンションにただ籠っているだけでは気持ちも晴れまい。また「解離性障害」が再発しても困る。かといって気晴らし旅行というのも変だ。

 そこで、どうだろう。高砂親方ともども永平寺に修行にでも行ったらどうか。原則的に永平寺は年末から年始にかけて一般人の参禅を許可していない。しかし、日の下開山横綱が「是非に」と頼み込めば、特別な配慮が得られるかもしれない。

 永平寺の修行の厳しさはつとに有名だ。HPには<参禅を志す方は、本山の日課と、雲水の日常生活に準じた修行をします。特に厳格である為、興味本位で上山すると挫折します。参禅期間中は禁煙です>と書かれてある。一度、テレビで雲水の修行風景を見たことがあるが、俗世とは一線を画した、聖なる世界がそこには広がっていた。

 永平寺といえば阪神時代の江夏豊さんが金田正泰監督(故人)に誘われ、1973年に修行を行ったことがある。ヘビースモーカーの江夏さんにとって禁煙は何よりもこたえたそうだ。朝は4時半に起床、坐禅は1日6時間。5日間、ひたすら驕りはなかったか、甘えはなかったか、自分の心と対話し続けた。その甲斐あってか、この年は24勝をマークして最多勝に輝いた。

 煩悩がちょんまげを結って、そのまま花道を歩いているような朝青龍に今、一番必要なのは驕りや甘えとの決別だろう。横綱とは何か、相撲とは何か。親方ともども真冬の薄明かりの中で坐禅を組み、和尚に警策(きょうさく)で右肩を打ってもらえばいい。自らに足りないものが少しは見えてくるかもしれない。

<この原稿は07年12月26日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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