今回の白球徒然・HAKUJUベースボールスペースは、20年と21年、BCリーグ石川ミリオンスターズ(MS)で指揮を執った白寿生科学研究所人材開拓グループ長・田口竜二さんに話を聞きました。2年間、石川MSの指揮官を務めた田口さんの目に映った独立リーグの今、そして将来は?

 

 「自分自身で考えろ」

 監督1年目の20年は本当に開幕まで時間のない中で「出向」というかたちで就任し、編成にもタッチしないまま、どたばたと始まった格好でした。2年目の21年は編成にも関わり、さらに監督だけでなく投手コーチの役も務めました。振り返ればいろいろと大変でしたが、充実し、そして貴重な経験をしたと思っています。

 

 20年、監督になったときに一番感じたことは、独立リーグに対し外から見て抱いていた感覚と現実のズレでした。独立リーグというと私は「NPBを目指す最後の場所、最後の砦」そういうイメージを持っていました。これは世間の方々も同様でしょう。

 

 しかし実際に中に入ってみると、思い出づくりというか、皆で楽しくワイワイと野球をやりたいと思っている選手がほとんど。「あれ、こういう場所だったんだ」と、少し驚きました。中にはもちろんNPBを目指している選手もいて、そういう選手は目標に向け、自分自身が何をすべきかを理解し、日々、取り組んでいました。理想を言えば独立リーグの選手全員が、失敗を恐れずに上を目指してチャレンジするべきだと考えますが、でも現実的にそれは難しいとわかりました。

 

「これでいいんだろうか」と戸惑うこともあった1年目が終わり、そして2年目の21年シーズン。投手コーチも兼任し、ブルペンも見るようになりました。

 

 独立とはいえ良いピッチャーが多くいて、その中でも際立っていたのがルーキーの高田竜生(遊学館・石川)です。「なんでNPBにいないの?」というくらいの球を放っていて、チームメイトも「竜生とキャッチボールするのは怖い」と言うくらい回転が良く、とても伸びのあるボールをビシビシと投げ込んでいました。

 

 2月には春季キャンプ後のNPBのスカウトが視察に来て、「あれ、なんで独立にいるんですか、この選手」と言ったくらい。開幕前の時点でNPBレベルに達していたわけです。

 

 彼自身、高校時代から「NPBに行く」と決めていて、それで指名漏れしたことから1年目からドラフト対象となる独立リーグを進路に選びました。「絶対に1年で行ってやる!」と言ってたように、相当に指名漏れが悔しかったようです。

 

 素材は一級品ですから、後はどうやったらNPBに行けるかだけです。別に私は彼に手取り足取りの指導はしていません。「1年でNPBに行くためには何をすべきか考えなさい」。これだけを言いました。

 

 他でもない彼の人生なのですから、自分で考えるしかありません。NPBに行くのが目標だとしても、それはただの入り口にすぎません。その後、どう活躍し、どうなりたいか。それを自分自身で考えれば、自ずとやるべきことは見えてくる。高田にも「目指す場所があるんだろう。なら自分で考えろ」と。

 

 彼は球のスピードやキレは一級品でしたが、コントロールにやや難があった。だからといってこちらから「ドラフト指名されたいならコントロールを直せ」とは言いませんでした。それも本人が考え、気付き、そしてどういう練習をするか。それでわからなければ、私に聞きにくればいい。

 

 日本にはいろいろなスポーツがありますが、この「自分で考えろ」という文化は残念ながら野球にはありません。小さいときから監督やコーチから「こうしろ」「ああしろ」と言われて育ってきたので、言うなれば指示待ちです。ラグビーやサッカーの経験者と話をするとわかりますが、彼らは考える文化の中で育っているから、「どうしましょう」ではなく「こうしよう」というスタンスです。

 

 だから高田以外のピッチャーにも私は何も教えていません。コーチングではなく、私は彼らと会話をしただけです。教えたとすれば野球の技術ではなく生き方や考え方でしょうか。そのおかげか石川の投手陣は自分で考えるようになり、責任感が芽生えた印象ですね。

 

(後編へつづく)

 

 

田口竜二(たぐち・りゅうじ)
1967年1月8日、広島県廿日市市出身。1984年に都城高校(宮崎)のエースとして春夏甲子園出場。春はベスト4、夏はベスト16。その年の秋、ドラフト会議で南海ホークスから1位指名され、プロ入り。2005年、退団。球団スタッフを経て、現在は株式会社白寿生科学研究所人材開拓グループ長としてセカンドキャリア支援を行なっている。20年、21年は白寿生科学研究所から出向するかたちでBCリーグ石川ミリオンスターズの監督として指揮を執った。

 

(取材・まとめ/SC編集部・西崎)


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