新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、前年中止となった大学柔道の全国大会(全日本学生柔道優勝大会、全日本学生柔道体重別選手権大会、全日本学生柔道体重別団体選手権大会)が今秋、2年ぶりに開催された。印象に残った2人の選手を紹介したい。

 

白石響(しらいし・ひびき)2001年5月31日、熊本県出身。環太平洋大2年。52kg級。5歳で柔道を始める。熊本西高卒業後、環太平洋大に入学。21年に48kg級から52kg級へ階級変更。全日本学生体重別選手権、全日本ジュニア体重別選手権を制した。同年には全日本学生柔道体重別団体選手権優勝にも貢献。身長156cm。得意技は小内刈りと背負い投げ。趣味はお菓子作りとカフェ巡り。

 階級変更のシーズン

 

 全日本学生体重別選手権の個人で優勝し、団体戦制覇に貢献した環太平洋大学2年の白石響は、今シーズンから階級を全日本柔道連盟のC強化(ジュニア)選手に選ばれている48kg級から52kg級に上げた。身体が大きくなり、筋力もアップしている中、減量が厳しくなっていたからだ。白石は語る。

「10kgくらい落とさなくてはいけなくて、試合前にヘロヘロになる。計量だけのための減量になってしまっていて、その期間は柔道が嫌になるほどでした」

 

 大学で彼女を指導する矢野智彦監督もその点は懸念していた。

「稽古で鍛えていたことも、減量で実力が半減するのはもったいないと感じていました」

 白石は矢野監督、片桐夏海コーチと話し合い、今シーズンから52kg級への転向を決めた。

 

 52kg級が適正だということを証明したのが11月の全日本学生体重別選手権。オール一本勝ちで頂点に辿り着いた。大学日本一の称号を手にし、全柔連のB強化選手の資格を得た。成長の手応えを掴んだ大会だった。元々組んでから足技を仕掛け、そこから担ぎ技へと展開するのが得意の型だったが、組み手争いはどちらかと言えば不得手だった。「大学に入ってから考えて組み手をするようになった」と白石。矢野監督も「これまでは“勝ちたい”という気持ちだけで攻めていた。今は戦術を少しずつ考えられるようになってきたと思います」と変化を口にする。

 

 大会前には寝技も鍛えた。白石はこう振り返る。

「大学に入ってから技を決め切れず、ポイントが取れなくなっていました。矢野先生からは『相手を崩した後の寝技の移行もひとつの手だぞ』と言われ、寝技にも一生懸命取り組んできました」

 

 矢野監督の狙いはこうだった。

「元々、足技の巧い選手。しっかり組めれば足技も出せるし、そこから担ぎ技も掛けられる。彼女に限らず、チームとしても組み手の精度、幅を広げるために稽古は多く取り組んでいます。そして足技で一本を取れなくても寝技を武器にできれば、もっと勝つ確率が上がる。大学に来てから寝技も鍛えました」

 

 準決勝、決勝では足技からの寝技で一本を取った。準決勝は大学の後輩・野上莉来奈(1年)に上四方固め(技ありとの合わせ技一本)、決勝は大学の先輩・新城凛子(4年)に横四方固めで勝負を決めた。決勝は地区予選の中四国体重別選手権大会決勝で敗れた相手だったが、小内刈りで相手を崩し、そのままスムーズに寝技に移行して勝利をもぎ取った。

 

 鍛えた分だけ成長する――。矢野監督は、そう強調する。「人一倍稽古が積める子。教えた技術は、稽古の中でも積極的に使おうとする。その分、習得は早いと思います」。組み手、寝技は今後も極めていく必要があるものの、「柔道が好きですし、やっていて楽しい」と稽古に対して前向きなところも彼女の長所と言えるだろう。現在、20歳。伸びしろは、まだ十分にある。

 

 12月に行われた全日本ジュニア柔道体重別選手権大会も制し、上り調子の白石。「外国人選手にとって彼女の足技は脅威になる。足首が柔らかく、いろいろな角度から足技を繰り出せる選手は多くない。いずれは52kg級の全日本チャンピオン、その先を目指せる選手」と矢野監督は太鼓判を押す。

 

 だが同階級には東京オリンピック金メダリストの阿部詩(日本体育大3年)という実力者がいる。白石が日本一、その先の世界一を狙うためには避けては通れない相手だ。矢野監督は「彼女の性格的に強いライバルがいた方がやる気になるタイプ」とプラスに働くと見ている。

 

 まずは来年1月に控える講道館杯全日本体重別選手権大会がひとつの試金石になる。「ここでしっかり結果を残して来年早々から国際大会に派遣されるような選手になっていかないといけない」と矢野監督。52kg級は阿部の他、世界選手権金メダルの志々目愛(了徳寺大職員)がいるため、講道館杯では決勝進出以上が国際大会派遣の目安となるだろう。

 

 48kg級では高校2年から2度出場し、1回戦、2回戦で敗れた。昨年はケガのため辞退している。「52kg級で出るのは初めてなので頑張りたいです」と白石。大学日本一、ジュニア日本一を手にしたが、次はシニアレベルの相手にどこまでできるかを証明しなければならない。それがパリオリンピックへ近付くステップとなるはずだ。

 

「吸収力と爆発力はウルフ以上」

 

松村颯祐(まつむら・そうすけ)1999年7月23日、島根県出身。東海大4年。100kg超級。4歳で柔道を始める。開星高卒業後、東海大に進学。全日本学生優勝大会は出場した3大会すべてで優勝。東海大の同大会5連覇、全日本学生体重別団体選手権2連覇に貢献した。個人では19年世界ジュニア選手権で金メダルを獲得。21年に全日本学生体重別選手権で優勝した。身長180cm。得意技は払い腰。

 男子の最重量級100kg超級は全日本の鈴木桂治監督が最重要課題に掲げる階級だ。東京オリンピックでは原沢久喜(百五銀行)が5位に終わり、メダルなしに終わった。日本勢の金メダルは08年北京大会以来、遠ざかっている。この階級でオリンピック後、代表争いに名乗りを上げたのが東海大4年の松村颯祐。19年には世界ジュニア選手権を制し、全柔連のB強化選手に入るホープだ。

 

 最終学年となった今シーズンは東海大の全日本学生優勝大会、全日本学生体重別団体と団体2冠に貢献した。個人の全日本学生体重別選手権でも優勝するなど充実のシーズンとなった。しかし11月に行われた全日本学生体重別選手権は出場辞退も頭をよぎった。

 

 11月の全日本学生優勝大会、松村は準決勝で左足腿裏を肉離れした。当初は立っているだけで精一杯だったという。稽古で乱取りができるようになったのが大会2日前。「その日までは出ないことも考えましたが、動けるようになったので“やってやろう”と思いました」。来年春に卒業するため、大学の全国大会(個人戦)は最後となる。

「中学3年、高校3年の時にケガで全国大会出ていないんです。また最後の年に全国大会出られないのかと思うと、心残りになる。悔いがないようにできることはやろうと出場を決めました」

 

 完治していない左足の痛みは、試合に影響を及ぼしたが、一方で“ケガの功名”となった部分もあった。

「今の自分にできることを考え、試合前から研究した。これまでより自分の柔道を見つめ直して臨めた大会だと思います」

 上水研一朗監督も「逆に彼の戦い方が洗練されていたような気がします。試合を見ていても危なげなかった」と評価する。

 

 1回戦は支え釣り込み足で一本。2回戦は相手が指導3つによる反則負け。3回戦はゴールデンスコア(延長戦)までもつれたが裏投げで技ありを取った。準々決勝は払い腰、準決勝は裏投げで、2つの技ありを取り、合わせ技一本で勝ち上がった。

 

 決勝の相手は東京学生柔道体重別選手権大会決勝で敗れた東部直希(日本大4年)。「組み手が巧い選手。自分がどこまで根気強く組み手に粘れるか」。4分間では互いにポイントを奪えず、延長戦に突入した。時間無制限のゴールデンスコアは45秒で決着を付けた。足車で相手をひっくり返した。東京大会のリベンジを最高のかたちで果たした。

 

 大学日本一を達成し、100kg超級の代表入りに名乗りを上げた。

「大学生だけでも、この階級には斉藤立選手(国士舘大2年)や中野寛太選手(天理大3年)が出てきている。“自分もいるんだぞ”ということをしっかりアピールしていきたいです」

 

 重量級ということもあり、豪快な投げ技に目を奪われがちだ。得意技の払い腰に加え、相手を力で抱え上げ、畳に叩きつける裏投げも松村の武器のひとつ。上水監督は彼の長所に「器用さ」を挙げる。

「大味な中にも器用さがありました。彼は右組みですが、左の技もできる。重量級でどちらもできる選手は少ないんです。吸収力、爆発力で言えば、ウルフ(・アロン)以上のものを持っている」

 教え子である東京オリンピック男子100kg級金メダリストと松村を比較し、奮起を促した。

 

 試合を見ていて、印象に残ったことがある。それは礼を丁寧にすることだ。ゆっくり深く頭を下げる。本人に直接聞くと、「めちゃくちゃ気を付けていますね」と返ってきた。

「自分の中で戦うスイッチを入れる。中学の時まではパパッとやることが多かったのですが、焦って空回りすることもあった。自分の心を落ち着かせるため、高校2年から礼を丁寧にゆっくりやるようになりました」

 

 上水監督にも、松村の礼について聞いた。

「試合前は気持ちが高ぶるので、落ち着かなければいけません。試合後は興奮状態であるところを静めなければいけない。丁寧な礼を心がけることは、自分の内外に影響を与える。私はとてもいいことだと思います」

 

 松村の次なるターゲットは講道館杯。100kg超級には先に挙げた斉藤、中野の他にも大学の先輩である羽賀龍之介(旭化成)、影浦心(JRA)、太田彪雅(旭化成)らと優勝を争うことになるだろう。松村は「大学最後の講道館杯で、しっかり成績を残してシニアの大会にも出場できるように頑張りたい」と意気込んだ。

 

(文・松村選手の写真/杉浦泰介、白石選手の写真/ⓒ環太平洋大学)

 

 BS11では引き続き学生柔道を放送予定です。来年度の各大会の放送もぜひお楽しみに!


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