林下詩美、「強くてカッコ良い」イメージは譲れない ~女子プロレス~
女子プロレス団体「STARDOM」(スターダム)に所属する林下詩美は、2021年プロレス大賞の女子プロレス大賞、スターダム・アワード2021のMVPに輝くなど、今や女子プロレス界の“顔”である。今後を見据える23歳に、その想いを聞いた。
――昨年はワールド・オブ・スターダム王座のV9に成功するなど、飛躍の年でした。
林下詩美: スターダム最高峰の赤いベルト(ワールド王座)をずっと防衛してきました。自分がベルトと一緒に成長でき、大きくなれた。スターダムのトップ、女子プロレス界のトップを突っ走ってこれた1年だったと思います。
――ベルトを獲得したのは20年11月の仙台大会でした。岩谷麻優選手を下し、第13代王者となりました。
林下: 岩谷はスターダムのアイコン。そう誰もが認める選手から団体最高峰のベルトを獲ったことで、それを喜ぶ間もないくらい“次は私が”という重い責任を感じました。防衛戦を積み重ねていく中で、“赤の王者はタフじゃなきゃ務まらない”と実感したんです。
――それほどベルトを背負う重圧は大きかったと?
林下: チャンピオンとしての立ち居振る舞いをしなければいけないという思いと、負けられないプレッシャーが常にあった1年でしたね。大変ではありましたが、そのおかげで自分が何段階もレベルアップできたという手応えもあります。
――ご自身で変化を感じられるところは?
林下: 風格が出てきて、雰囲気も変わったと思います。存在のゴージャス感、タイトルマッチをこなしていく中でタフさが増し、自分のリミッターをどんどん超えていくことができました。
――昨年末の両国大会で朱里選手に敗れ、9度防衛したワールド王座から陥落しました。逆に言えば歴代3位となるV9は快挙です。
林下: 防衛を重ねていく時も達成感より、“まだか”という気持ちの方が強かった。それほど1戦1戦がタフだったんです。最多防衛(14回、紫雷イオ)のすごさを身にしみて感じていました。
――リングコスチュームは赤を基調とし、髪の色も赤。赤のイメージが強い林下選手ですが、それは赤のベルトを意識してのもの?
林下: 私自身は紫が好きな色なので、紫をイメージカラーにしたいと思っていました。ただ私のデビュー当時はスターダムに紫の方が多かった。それで団体内に少なかったので、“赤はカッコ良いし、いいかな”と軽い気持ちで赤にしたんです。団体の最高峰のベルトも赤で、憧れのイオさんも、リングコスチュームに赤を使っていたので運命的なものも感じます。今でも好きな色は紫ですが、何かを買いに行く時に目がいってしまうのは赤のものが多いですね。
――インタビューなどでも林下選手の団体を思う気持ちは伝わってきます。林下選手が感じるスターダムの魅力とは?
林下: プロレスのレベルが高く、見た目も可愛くて美しい選手がたくさんいる。個性豊かな選手たちが見せるリング上でのギャップもある。“あんな可愛い子がすごい!”と驚く人もいれば、“同じ女性としてカッコ良い!”と思ってくれる人もいる。誰が観に来ても“推し”を見つけてもらえるような女子プロレス最高の団体だと思っています。
――林下選手自身も美しさ、カッコ良さは大事にしていますか?
林下: そうですね。私自身、プロレスファンだったこともあり、リング上での立ち居振る舞いを重要視しています。“プロレスラーは強くてカッコ良い”というイメージは譲れない。リング上はもちろんですが、リング外でも。特に入場は意識していて、そこは女子プロレス1カッコ良いと思っています。だから入場から退場まで、たとえ試合に負けたとしても「林下詩美はカッコ良い選手」と自分で胸を張れます。
――格闘技はケガと隣り合わせの世界です。その恐怖心とも戦わなければいけません。
林下: 私の場合は入場曲が鳴り、お客さんを見渡した時にスイッチが入ります。それまでは緊張したり、不安になったりもしますが、スイッチが入れば“カッコ良い私を見てください”と思いますね。
“家族”の存在
――応援してくれるファンの存在は?
林下: リング上への皆さんの声援、今だったら手拍子はすごく力になります。たくさんのお手紙やSNSのメッセージもエネルギーになっています。コロナ下でなかなか開催はできていませんが、サイン会や撮影会はファンの人たちからの愛を直接いただき、それに応えることができる大切な時間です。
――口うるさいファンから「こうした方がいいよ」などと“注文”を受けることも?
林下: あります。ただ人に言われても取り入れないですね。私は自分らしく、自分の考えるプロレスを追求しています。例えば“こんな技をやってみれば”と技のレパートリーを増やしても、ひとつひとつの技がそこそこになってしまっては意味がない。“あの人の必殺技って何?”とぼやけてしまいますから。私はパワーファイター。今持っている技のひとつひとつを大事にして精度を上げていくことを心がけています。
――デビューから数年で女子プロレスのトップレスラーに成長しました。ここまでの道のりは順調ですか?
林下: 自分の中ではデビューの時から“ビッグダディの三女”と呼ばれ、その話題性だけでデビューできたと思われたくなかった。練習生の頃から人一倍努力してきたと自負していますし、デビュー後も必死でした。たくさんの壁を何度も越えて今がある。自分の中では苦労も多い3年間でした。
――“ビッグダディの三女”から“林下詩美の父親がビッグダディ”へと周りの目が変わったと感じるようになったのはいつ頃ですか?
林下: 赤いベルトを獲る前くらいから、そう言われることも減りましたし、自分の中でもビッグダディという存在を超えたと実感できるようになりました。ただ家族の存在は私の中でも特別なものです。家族のみんなが応援してくれているからこそ頑張れる部分もあります。
――中学生の時にプロレスラーに憧れ、現在その夢を叶えています。今でもプロレスを好きという気持ちは変わらない?
林下: はい。プロレス大好き、楽しいという思いは、レスラーを続けていく中で日々、増していっています。
――今後に向けては?
林下: 2021年はシングルのチャンピオンとしてやってきた。もちろんシングルのタイトルも狙いますが、私の所属するユニット「Queen’s Quest」(クイーンズ・クエスト)がリーダーに裏切られて新体制になりました。新生クイーンズ・クエストとしてのベルトが欲しいです。
――リーダーの渡辺桃選手(現・大江戸隊)が抜けたチームは、林下選手のほかAZM選手、上谷沙弥選手、妃南選手、レディ・C選手が所属しています。クイーンズ・クエストは林下選手にとってどんな存在?
林下: 私にとっては第二の家族。対戦すればライバルになりますが、仲間として隣にいれば安心して任せられる。リング外では姉妹のように食事に行ったり、楽しく遊ぶ大事な存在。家族であり、ライバルであり、助け合える仲間ですね。
――自身のレスラーとしての理想像は?
林下: 私がプロレスファンの時に“プロレスラーって強い、すごい、カッコ良い。輝いている!”とキラキラ光って見えました。私の試合を観たファンの人に同じように思ってもらえるような選手でありたいと思っています。
――林下選手に憧れてスターダムを目指す選手も出てきているんじゃないですか?
林下: そうですね。ありがたいことに「詩美さんに憧れてスターダムに入りたいと思っています」という手紙をたくさんいただいています。その子たちのためにも、まだまだ“カッコ良い林下詩美”のままで待っていたいと思います。
<林下詩美(はやしした・うたみ)プロフィール>
1998年9月14日、鹿児島県出身。“ビッグダディ”こと林下清志氏の三女で、大家族の一員として幼少期からテレビで注目を浴びる。中学で始めた柔道は、2年時に香川県大会で2位に入る。高校卒業後は飲食店に勤務し、妹たちの学費を稼いだ。妹たちの卒業を機に、憧れだったプロレスラーの道へ。18年3月、「STARDOM」(スターダム)に入門。練習生期間を経て、同年8月にプロデビューを果たす。タッグリーグ「GODDESSES OF STARDOM」で渡辺桃と組んで初出場初優勝。11月に渡辺とのタッグでゴッデス・オブ・スターダム王座に挑戦し、デビュー3カ月でタイトルを獲得した。18年の「プロレス大賞」新人賞を受賞。19年には4冠(ゴッデス、フューチャー・オブ・スターダム、SWA世界、EVEインターナショナル)を達成。20年11月にワールド・オブ・スターダム王座を奪取。21年12月に敗れるまで、史上3位の9度の防衛に成功した。21年は「プロレス大賞」の女子プロレス大賞、「スターダム・アワード2021」のMVPに輝いた。身長166cm。
(取材・構成/杉浦泰介、写真/ⓒSTARDOM)
※BS11では毎週火曜日23時半より「We are STARDOM!!~世界が注目!女子プロレス~」を放送中です。林下選手が語る「可愛くて美しい選手」たちのリングでの躍動を、ぜひご覧ください!