早いもので、もう年末です。つい最近まで暖かかったのに一段と冷え込みが厳しくなりました。天気とは裏腹に天皇杯決勝戦はヒートアップしました。今回は天皇杯と僕の古巣である鹿島アントラーズの動向について語りましょう。

 

 日本代表戦のスケジュールの都合で天皇杯決勝戦(浦和レッズ対大分トリニータ)は12月19日、国立競技場で行われました。浦和は今季でクラブを離れるMF宇賀神友弥、DF槙野智章のラストマッチ、大分は片野坂知宏監督が指揮する最後の試合でした。浦和、大分ともに士気は高かったです。

 

 試合は非常にスリリングな展開となりました。前半6分に浦和がMF江坂任のゴールで先制し、後半45分に大分がMFペレイラのヘディングシュートで同点に追いつきました。誰もが延長戦突入を覚悟した、その時でした。途中出場の槙野が味方のミドルシュートを頭でコースを変えて勝負を決めました。役者が点を取った、という感じす。

 

 大分は片野坂監督が今季でクラブを離れ、来季はガンバ大阪の監督に就任します。片野坂監督は大分のサッカーをがらりと変えましたね。パスサッカーを見事に植えつけました。僕の印象としては“ハマる時はハマる”。非常に面白みがありますが、相手チームの出方によっては“ハマらない”時もあり得てしまう。大分からJリーグを大いに盛り上げてくれたと思います。来季はG大阪で指揮を執りますが、元々、所属している選手のパフォーマンスをうまく引き出してほしいです。

 

 変えるところと変えないところ

 

 監督人事と言えば、僕の古巣・アントラーズが話題になっています。クラブ創設初となるヨーロッパ人のレネ・バイラー(スイス)氏が監督に就任しました。ブラジル路線を貫いてきましたが、ここで大きく舵を切りました。Jリーグは非常にスピーディーな展開が多くなってきています。アントラーズは目先を変えて、スピーディーな展開に対応できるヨーロッパ系の監督を招聘しました。

 

 そして、クラブOBの岩政大樹がトップコーチとして復帰します。彼は頭が良くサッカーを言語化できます。まだまだ若いですから本人も動けるでしょうし、実演もできるはず。言葉と実演をミックスして選手を指導してほしいです。バイラーの考えを吸収して選手に伝える役割が求められます。何てったって、リーグ3連覇時のレギュラーですから(笑)。否が応にも期待は膨らみます。

 

 ディフェンスリーダーの犬飼智也が浦和に移籍しました。これは痛いですね。頭を使ってボールを奪える選手です。ビルドアップもレベルが高くボランチ的な要素も兼ね備える魅力的な人材で、今季は5得点と活躍しました。他クラブから狙われちゃうのも、当然といえば当然でしょうか……(笑)。パスサッカーを展開するリカルド・ロドリゲス監督率いる浦和にはフィットするかと思います。

 

 何かと変化が多いアントラーズですが、ジーコイムズ(献身・誠実・尊重)は残していくべき事柄だと思います。ジーコがクラブに植えつけた精神性は不変であるべきです。アドバイザーとしてアントラーズに籍を残しますが、テクニカルディレクターは退任します。ジーコ自身もアントラーズでの役目を卒業する時期だったのかなと思います。完ぺき主義ですから、結果が出せなかったのは悔しい思いがあったのでしょう。

 

 さて、読者のみなさまには今年も1年大変お世話になりました。来年はカタールワールドカップが開催されます。来年も僕なりの目線でサッカーを語れればと思います。それではみなさま、よいお年をお迎えください。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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