まさに「嵐」を巻き起こした。

 第100回の記念大会となった全国高校サッカー選手権。高川学園(山口)は準決勝で青森山田(青森)に0-6と大敗してベスト4に終わったものの、独特のセットプレーで大きなインパクトを残した。

 

 何人かで手をつないで円陣をつくってぐるぐると回転しながらセットプレーからのボールに合わせる「トルメンタ」(スペイン語で嵐を意味。高川学園が命名)は、ユニークながらも実に効果的だった。誰がどこに飛び出してくるか分からないため、相手としてはマークにつきづらく、動きも読みにくい。1つの大きな輪バージョンだけかと思いきや2つの小さな輪バージョンもあり、準々決勝の桐光学園戦ではそこから決勝ゴールを奪っている。高川学園の知名度を一気に高めた大会になった。

 

 ハンパない強さで優勝した青森山田もセットプレーに強かった。その高川学園戦では6得点中3得点がセットプレーから。決勝の大津(熊本)戦でもコーナーキックから先制点を挙げ、後半にもロングスローのボールを一度はじき返されながらも、10番の松木玖生がヘディングで押し込んでいる。キッカーが蹴るボールの精度や選手たちのフィジカルの強さも要因なのだが、何よりもバリエーションが豊富。セットプレーにこだわってきたことがよく分かる。

 

 高校サッカーにとどまらず、セットプレーは日本サッカー全体の強みではなかったか。無論、日本代表もそうだ。

 

 世界と比べれば高さや体の強さこそ下回っているかもしれないが、組織力、工夫、テクニックあるキッカーで補ってきた歴史がある。2010年の南アフリカワールドカップ、グループリーグのデンマーク戦では本田圭佑と遠藤保仁が直接FKからゴールを奪い、先のロシアワールドカップ、グループリーグのコロンビア戦ではCKから大迫勇也の決勝ゴールが生まれている。アジアの大会やワールドカップ予選でも、セットプレーを強みにしてきた。しかしながら近年はその持ち味がだいぶ薄れてきてしまっている。

 

 代表で集まれる機会が少なく、キッカーを固定できないなど、様々な理由があるとは思う。だがこうやってアジア最終予選で苦しんでいるのも、セットプレーがなかなかゴールに結びついていないことが一つの要因にあるように感じてならない。昨年、4位に終わった東京オリンピックでもFK、CKからゴールが生まれていない。セットプレーの向上が最終予選突破の、そしてその先にあるカタールワールドカップの躍進のカギを握ってくる一つの要素になることは間違いない。

 

 昨年、セットプレーをテーマに中村俊輔にインタビューをした。現代サッカーにおいてもセットプレーが重要であることに変わりはないという認識だった。

「たとえばEUROで優勝したイタリアはやはりセットプレーでも強かった。決勝でもCKからボヌッチが同点ゴールを決めている。逆に守備ではやられていない。“流れ重視”の現代サッカーではあっても、セットプレーが勝敗を左右するケースは多々ある」

 

 セットプレーのトレーニングにおいても従来どおりではなく、これからはさらなる工夫が必要になってくるのかもしれない。中村はこう語ってくれた。

「セットプレーのことをずっと考えてきた一人として言うなら、全体練習のほかに3対3など少ない人数でやっていくのも面白いのかなとは感じる。ボール回しの練習があるのであれば、セットプレーバージョンがあってもいい。マークをつけて決められた幅のなかで攻撃側はどうゴールにつなげられるか、守備側はどう守るか。キッカーとの信頼関係や責任感を植えつけていくには、あってもいいのではないかというのが個人的な感想」

 

 日本代表になると時間的な制約が当然出てくる。とはいえ、セットプレーの課題には向き合っていかなければならない。何かしらの“向上策”は絶対に必要になる。

 セットプレーはやはり日本サッカーの武器。

 2022年の新春、高校サッカーがそれをあらためて教えてくれたような気がする。


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