日本人フットボーラーに熱い視線を送っているクラブがある。

2021年シーズンのJ1得点王で横浜F・マリノスのエース、前田大然と川崎フロンターレのJリーグ連覇に貢献した旗手怜央の獲得が取り沙汰されるスコットランド1部・セルティックだ。さらにガンバ大阪の井手口陽介も交渉中だとか。冬の市場で一気に日本から3人も獲得する可能性があるというのだ。

 

 多大な功績を残した中村俊輔は今なおリスペクトされ、現在は古橋亨梧がゴールを量産しているとはいえ、それが“まとめ獲り”の背景にあるとは思えない。その古橋にプレミアへのステップアップがウワサされているが、今夏までF・マリノスを指揮したアンジェ・ポステコグルー監督が、そもそも日本人選手を高く評価しているからだと言えるだろう。

 

 

 ポステコグルーの超攻撃サッカーは、スコットランドでも注目を浴びている。

 開幕戦黒星でスタートを切り、第6節終了までに3敗を喫するという苦しい序盤であったが、それ以降は順調に勝ち点を積み上げてきた。10月には4連勝を飾って、リーグの月間最優秀監督にも選ばれた。

 古橋の活躍も攻撃に重心を置く指揮官によって能力を引き出されていると言っても過言ではあるまい。ELの決勝トーナメント進出は逃がしたものの、国内では首位レンジャーズを猛追していてチームの完成度も上がってきている。これからが實に楽しみなチームである。

 

 ポステコグルーのマネジメントの特徴は一体感のあるチームをつくることだ。求心力が高く、指揮官のもとでチームが一つになれる。

 F・マリノスでもそうだった。リーグ制覇した2019年シーズンの戦いを追った密着ドキュメンタリーシリーズ「THE DAY」を視聴した際、指揮官がミーティングの席で熱く選手に語り掛けるシーンが多く盛り込まれていたのが印象的だった。

「常に自分たちのことだけ話をしているようなチームになろう!」「怖れてプレーしたいのか!」「相手は関係ない。常に自分たちのサッカーをするんだ!」

 大切にしたのはピッチ内におけるポリシーばかりではない。何よりも大切したのは「ファミリー」。キャプテンを務める喜田拓也に、そのことを尋ねたことがある。

「仲間のために頑張る、仲間のために体を張る、仲間を大切にする集団になろうというのは、僕自身が大切にしてきたことでもありました。だから監督の言葉は、自分のなかで凄く響きましたね。サッカー選手としてだけではなく、一人の人間としても監督は尊敬できるし、多くのことを教わっています。それはみんな同じだと思いますね。

 いかなるときもF・マリノスのサッカーを、自分たちを貫き通す、信じてやる大切さを教えてくれています。選手個々の能力が伸びるようなサッカーをしているし、それをみんなでつくっていく面白味を感じています」

 

 アグレッシブに、ハードワークに。

 そのマインドを体現していくには「仲間のために」が抜け落ちてはいけなかった。

 

 私も一度インタビューしたが、話に引き込まれる自分がいた。

オーストラリア国内でタイトルを獲っても、オーストラリア代表監督としてアジアカップを制しても「満足など一度もない」と言う。

 彼はこう言葉を続けた。

「画家が作品をつくるように“もっとできるだろう。次はこういう可能性があるんじゃないか”と毎朝起きて、そのモチベーションが高まる。私は常にそう考えるから、満足することなどない。

 

 プレッシャーを感じたこともない。なぜならそれ自体が好きだからだ。映画と一緒で、エンディングが分かっていたらつまらない。サポーターも“どんなサッカーをするんだ”とドキドキ、ワクワクしてくれる。それがプレッシャーであるのならば、むしろ好きだ」

 チャレンジの人だからこそJリーグにやってきて、タイトルを獲っても満足することなく次なるチャレンジへ向かった。だから彼のもとにはチャレンジする人が集まってくる。結果を出していけば、ひいてはJリーグの価値を引き上げることにもつながる。

 選手の能力を引き出し、高いレベルで一体感を生み出す指揮官。ポステコグルーのチャレンジから目が離せない。


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