水島さんと親交があったスポーツライターの二宮清純氏(61)は、球界編成で揺れた04年当時、プロ野球チームがなかった四国に新球団を創設する構想について意見交換した思い出を明かした。水島さんの野球漫画には、自身の夢を投影するリアルな世界があった。

 

<この原稿は22年1月18日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>

 

 二宮氏は、水島さんの野球漫画について「バーチャルの中にリアルがあり、そのリアルの中に野球少年だった自分の夢があったのではないか。自分が選手だったら、こういう選手になりたい。もしコミッショナーだったら、こんなチームがあれば面白いというのを描いていた」と語る。実際、漫画に登場する球団が現実に誕生する可能性もあったという。

 

 04年6月から連載された「ドカベン スーパースターズ編」では、パ・リーグに創設された新球団として「四国アイアンドッグス」が存在する。当時は球界再編真っただ中。縮小均衡の流れに対し、二宮氏はかねて16球団構想を提唱し、拡張する4球団の本拠地候補の一つが四国だった。愛媛出身の同氏の構想に興味を持った水島さんから「話がしたい」と連絡があり、中村時広松山市長(現愛媛県知事)と3人で何度も意見交換した。独立リーグの四国アイランドリーグが創設される1年前の話だ。

 

「漫画で本拠地は松山の坊っちゃんスタジアムでした。新球団ができるなら“四国アイアンドッグス”の名前を拝借できないか、とかいろいろな話をしました。新潟にも球団ができれば、四国の球団と試合をする時は移動をどうしようとか。単なる絵空事ではなく、将来のプランでもあったのでしょう」

 

 新潟は水島さんの生まれ故郷。09年には新球場の名称を「ドカベン球場」とするプランが持ち上がり「漫画のキャラクターなどを置けば人気が出ますね。夢がありますね」という話で盛り上がったという。約4万人の署名も集まったが、県は資金面を理由に命名権の売却を決定し「ハードオフエコスタジアム新潟」に。水島さんは漫画の世界を通して、プロ野球の発展や地域振興も考えていただけに「あの時は寂しそうだった。最近は体調を崩されたと聞いていましたが、ドカベン球場があればもっとファンと触れ合えたのに……」と二宮氏は回想した。