安倍前首相の突然の辞任に続いて、民主党の小沢代表が辞意を表明した。「民主党はまだ力不足。次の選挙で勝つのは難しい」と大批判したが、小沢氏はわずか2日で翻意した。
 与野党激突と言われる中、党首会談の場では自民・民主の「大連立」というウルトラCが協議されていた。
 厳しい権力闘争を繰り広げる政治家たちの言動から、リーダーたる人間の資質について考えた。(今回はVol.4)
木村: 本宮さんが田中角栄氏と並んでリーダーの一人に挙げた小泉純一郎とはどういう人物ですか。

伊藤: 田中角栄氏と別の意味で、小泉純一郎という人間は存在感のあるリーダーだったと思います。今話を聞いていて興味深いなと思ったのは、小泉氏の政治的なテーマが「田中的な政治」というものをぶち壊すという点にあったことですね。「経世会をもう粉々にする」ということに、非常に闘志を燃やしていたと思います。

木村: 大嫌いだったわけですね。もう「政策も何も関係ない」みたいな感じですか(笑)。

伊藤: そこに「郵政民営化」という長年の目標を重ね合わせていったというのが小泉政治です。

木村: 小泉首相は田中角栄氏のようなトップダウン型ですか。

伊藤: 小泉さんは首相になってから、どんどん変わっていったと思います。就任当初は、誰も小泉純一郎という政治家がああいう感じでリーダーシップを発揮するとは思っていなかったと思います。2001年の第19回参議院選挙で大勝した後、小泉首相は強烈なリーダーシップを発揮するのではないかと思われていましたが、不良債権処理問題にしても、特殊法人の廃止・合理化といった問題にしても、意外にリーダーシップを発揮しませんでした。その後1年間は、小泉批判がかなり噴出した。「戦略がない」「政策の順位がつけられない」「支えるチームがない」と言われ続けた。しかし、小泉首相は、そういう批判に晒されながらも、戦い方を覚え、支えるチームも生まれ、郵政民営化に向けてひとつずつ着実に手を打ちながら、政局を回していった。
 リーダーとしての小泉首相の最大の特徴は、テレビ時代のリーダーだということです。ワンフレーズ・ポリティクスに代表されるような、誰の目から見ても、非常にわかりやすい政治を展開した。テレビという装置を使い、見事なまでに悪者と戦う正義の味方というような単純な図式を作りだし、国民の支持を取りつけました。亀井静香氏(元建設大臣)や野中広務氏(元自民党幹事長)は、小泉首相の政策に反対する「悪者役」にピッタリとはまってしまい、改革派である小泉首相が真っ向から闘うというイメージが国民の間に広がった。「政治というものは面白いものなんだ」と、国民の関心と支持を獲得しながら、リーダーシップを発揮する。これまでの自民党にはない新しい政治のスタイルを確立しました。

本宮: 例えば田中角栄さんは、どさくさに紛れて「ちょっとオッサン」なんて言いながら、手で触れるようなムードがあるんです。小泉さんにも、触ったりできそうな雰囲気はありますか。「チョンチョンチョン」と指でつつけるみたいな……(笑)。

伊藤: そうですね。非常に愛嬌のある、チャーミングな人物ですよ。

(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2008年1月号に掲載されたものを元に構成しています>
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